何故こんなところに旅館が？｜リアクション

何故こんなところに旅館が？

　迷い込んでしまった不思議な旅館。
　着物姿の女将が言うには、ウォルター・Ｂの名前でこの旅館に宿泊予約が入っているらしいのだ。
「えーと、そちらが稲積柚春様ですね？　お二人の名前でそれぞれご予約が入っております」
「え」
　不意に名前を呼ばれ、ぽかんとする。
「お部屋にご案内致しますね。こちらへどうぞ」
　言われるがまま、案内されたのはフロア３階の部屋だった。寝室はそれぞれ分かれているが、広い和室は共有スペースだそうだ。
「凄い、雰囲気が良いね」
　畳の匂い、行燈の灯り、先程まで不安だったが、程よい非日常の香りは遠くへ旅行にでも出かけたかのようなワクワク感がある。
「へぇ。和風というか、日本を感じられて良いね」
　ウォルターは旅館の一室が新鮮なようで少し楽しそうに辺りを見回している。
　そこでふと、柚春が気づいた。窓から見える日本庭園に……なんだか遠くを攻撃する武器というか、投げられそうな物ばかり並んでる。
「これもしかして、クイズとかバラエティ番組の企画？」
　ようやく疑問が晴れた気がする。
「ああ、僕も見たことあるよ〜。ゲームに勝つと、アイテムがもらえたり、美味しいものを食べられたりするやつ」
「ふふ。そう思って頂いて構いません。こちらのお部屋のプランは、このお部屋で夕飯を召し上がって頂きます。こちらへどうぞ」
　自分の寝室に荷物を置いて、和室の外、中庭へと出る。
「！」
　庭の真上の空は風船で埋まっていた。中に食券が入っており、撃ち落とすことで夕食のメニューが決まるらしい。
　その説明を受けて、柚春は確信した。
（本当に番組のゲリラ収録っぽい）
　非常にゲーム性の高い夕食タイムのようだ。
　女将さんが退出したので、風船を撃ち落とすための道具に目を通す。
「柚春」
　名前を呼ばれ、振り返る。
「どうしたの、ワット」
「あそこ」
　ウォルターが指を指した先には、針が1つだけの時計のような機械があった。時計で言う６の位置を指している。
「制限時間があるのかもねぇ」
「え、それって」
　悠長にこんなことをしてる場合ではなさそうである。
「とにかく、お腹いっぱいになれるように、頑張るしかない、ねぇ」
　ウォルターは持っていたライフルを構えた。
「まずは一品目」
　パンっと乾いた音と共に弾が当たった風船が破裂。
　降ってきたのは、大量のミニ風船だったのだ。どうやらただの演出のよう。
「びっくりした……」
　柚春はほっと胸をなでおろし、
「あ、でも急がないとご飯が食べられなくなるかも」
「ああ、そうだった。でもライフルは連射できないしねえ。一気に何個か割った方がいいだろうね。とりあえず、これで行こうか」
　取り出したのは、バレーボールである。
「少し高い位置からアタックして、空に向かって斜めに飛ばして3、4個割る」
「高い位置……どうするの？」
「バレーボールの授業やってるよね？」
「うん。……まさか僕が？」
　ウォルターは頷く。
「僕を踏み台にして、ジャンプして、ボールを打つんだ。さっきの感じだと、結構簡単に割れるみたいだからね」
「ワ、ワットのほうが絶対上手くいくのに」
「君を踏み台にするわけに行かないからねぇ」
　そう言われてしまい、結局実行することに。
　そして、
「……もう良い？」
「準備オッケー」
　柚春は駆け出した。ウォルターの組んだ手のひらを踏んで跳躍し、バレーボールを風船に向かって打つ。
「えいっ」
　ボールの性能が良いのか、この場の重力が弱いのか、ピュンと風の音がして、バレーボールは凄い勢いで風船を一気に5個も割った。
「やった」
　世界がスローモーション。やはり重力が弱いのか、それでも、体勢を崩してしまったことは分かった。
「あっ」
　頭から地面へ。しかし、
「柚春！」
　ウォルターの声と同時にとさっと軽い音がして、体をが安定した。
　いつの間にか閉じていた目を開ける。
「やぁ、大成功だね」
　上から見おろされていることと、完全にお姫様抱っこをされていることは分かった。キャッチしてくれたらしい。
「う、上手く行った？」
「完璧だったねぇ。さて、後は僕はこれで」
　彼の手にはチョークが握られていた。
「え！？」
「チョークは投げるものってこと、だね」
（違うと思うけど、あったんだ）
　そこに驚きである。

　最終的に手分けして割った風船は35個程、出て来た料理は魚あり、牛ステーキありの豪華な食事だった。

　浴衣を着て和室で並んで食べていると、普通に旅行に来たような気分になる。
（楽しい）
　いつか本当に旅行に行ってみたい。本人にはまだ言えないけど。
　柚春は苦笑を浮かべた。

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何故こんなところに旅館が？

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