あやかし忘年会、ひゅ～どろろ｜リアクション

あやかし忘年会、ひゅ～どろろ

●『あやかし歌謡ショウ』で盛り上がろう

「わぁっ、人魚だ！　綺麗だなあ！」
　あやかし達の間で人気のアイドル、ＹＯＫ４６が巨大水槽の中を踊り泳ぐ様子に、想花はぱちぱちと手を叩いた。
　といっても、おばけ酒『童子切』で幽体離脱している今、拍手の音は鳴らないのだが。
『天宇受売命』も呑んでいるから、無意識のダンスも止まらない。
　いつもの落ち着きはどこへやら、想花は見よう見まねで、ＹＯＫ４６の振り付けを踊り始めた。
「人魚の尾をぱたぱた……宙に浮いてる今なら真似できるね！」

　一方少し先ではラッセルが、痛くなるほど手を叩き、晴月とともにステージに見入っていた。
「すげえなあ。歌も花火も料理もなにもかもがすげえ。それになによりさあ」
　あやかし達は、皆笑顔なのである。
「派手だし面白れーし、怖い顔や血をみなきゃ愉快な奴らなんだよなぁ。偏見で嫌ってたかも………ダメだな」
「偏見？」
　晴月が首を傾げる。
　が、ラッセルはにっかと笑い、晴月とつないだままの手をぶんと振った。
「ま、それも今日限りだ」
　そう言う間に、ステージ上では演目が進んでいる。
　鬼の演歌歌手・虎縞三郎は、金ピカ衣装、かつミラーボールばりのライトアップのなか、銀テープが舞いまくるいうド派手演出だった。もちろん歌も見事。拍手喝さいとなった。
　次は楽器の付喪神・れいかい男子の出番だ。
　－－が。
「さっきの演歌より地味だな」
　客席から聞こえた言葉に、反応したのは晴月だった。
　なんと彼女は風を操って、三郎のときに床に落ちた銀テープを、男子たちの周辺にぐるぐる舞わせたのだ。
　計画外のことに驚く男子たち。「かっこいい！」と大きく鳴る拍手。
「晴月、やったな」
　ラッセルがぐっと親指を立てると、葉月は嬉しそうに微笑んだ。

　さて、ステージはその後、カラオケ大会へと発展した。
「晴月、歌って来いよ。人前で歌うの初めてだろ？　やりたくねーか」
「えっ……」
　突然の提案に、晴月は困惑顔だ。
　ステージを見、ラッセルを見、ステージを見て言うことには。
「ラッセルと一緒なら、いいよ」
　まさかそう来るとは思わなかった。一瞬びっくりしたものの、ラッセルはすぐ「いいぜ！」と返し、手をつないだままステージに向かう。

「あ、桜井先輩だ！　えっ、歌うの？　すごいっ！」
　おばけ料理の効果で、幽体離脱をしたウォルターと飛行中。
　柚春は思わず中空に静止する。もちろんウォルターも一緒だ。
　二人は興味津々で、ステージを見つめた。

　そのうちに、ラッセルと晴月の楽し気な声が、あたりに響き渡った。
　観客たちが、手拍子をしてくれる。
　晴月はお礼とでもいうように、優しい風をおこした。
　幽体離脱や飛行をしていたひとやあやかしたちが、風にのり舞い踊る。

　その後、歌い終え……。
　二人は礼をして、ステージを降りた。
「すごくどきどきした……」
「ははっ、俺もさすがに緊張した」
「でもラッセル、楽しそう。来てよかった？」
　晴月に聞かれ、ラッセルは「……おう」と答える。
「俺一人じゃ寮に帰りてぇ！　って思うばかりだったと思うしな。晴月がいてくれてよかったよ」
　晴月がにっこり笑う。その愛らしい顔に一瞬見惚れつつ、ラッセルは少しだけ厳しい声を出した。
「ああ。でもこれは霊界だから寝子島でも同じだとは思うなよ？　歌って踊って風操って喜んでくれるのは楽しいし俺は大歓迎なんだけど、フツウは恐れられて人が離れちまうぞ？」
　こんなこと、言いたくはないがこれも晴月のためだ。
「わかった。気をつけるね」と真面目な顔で頷く晴月に、ラッセルは手を伸ばす。
「ははっ、残りも楽しもうぜ」
　今度はラッセルの方から手を握るために。

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