あやかし忘年会、ひゅ～どろろ｜リアクション

あやかし忘年会、ひゅ～どろろ

●冬空彩る花火の下で

　あやかしとひとでいっぱいの道を歩くうち、想花の背中にどんと衝撃があった。
　振り返ればそこには、右手に酒瓶、左手に大盃を持ったあやかしがいる。
　頭から大きな角が生えていて驚くが、あやかしは「すまんすまん」とすっかり酔った笑顔を見せた。
「いえ……あの、ここは」
「あやかし忘年会じゃ！　ほら、お前も呑め呑め！」
「ぼく、まだ未成年で、お酒は……あぁっ……」

　コップに入ったお酒を渡され、想花は困惑した。
　しかしあやかしは「あやかしの酒には年齢制限などないわ！」と、想花が飲むのを待っている。
（ここで断っても何だか悪いし……。仕方ないっ！）
　思い切ってコップに口づけ、中身をごくごくと飲みほした。
　途端、体がかっと熱くなり、頭がふわふわ。心が沸き立つように楽しい気持ちになってきて、足が自然に動き出す。
「なんだかすごく楽しくなってきた！」
　けたけたと声を上げて笑う想花。
　想花はあやかしに混じって、思うままに踊り出した。
　そのとき、空にどーんと大きな花火が。
「わあっ、すごい！　綺麗だぁ～！」
　想花が感嘆の声を上げる。

　花火大会は、圧巻の一言だった。
　空を覆い尽くすほどの美しい光。ひとの世界のもののように、下から上がるだけではない。炎が竜巻のようにぐるぐる回る。
　かと思ったら、それを割る稲光。もちろんこれも演出だ。
　わかってはいるのだが――。
「きゃっ！」
　轟音に驚き、綾花は思わず珪に抱き着いた。
　珪は一瞬目を見開いたが、すぐに綾花の背中に手を置いて、とんとんとなだめてくれる。
「このまま花火を見てもいいですか？」
　はにかみながら問う綾花。
「いいよ」
　背中に置かれた珪の手が、綾花をそっと抱き寄せる。

「お待たせしました。おばけ料理『天狗の団扇盛り』です」
　花火が煌めく夜空からすうっと現れたあやかしに、柚春とウォルターは目を瞬いた。
　聞いた説明によると、これを食べると、不思議な能力が使えるようになるらしい。
　傍らを板前風のおじいさんが通り過ぎたが、彼が作ってくれたのだろうか。
　向かう先から「やあお疲れさん、剛鉄！」と聞こえてくる。
　内心で感謝を述べつつ、柚春とウォルターは、美味しそうな料理に見入った。
「分身と飛行と変化だって、ワットならどの力がほしいかな？　この前、僕のお願いなら空も飛んでみせるなんて言ってたけど」
「うん、言ったねえ」
「本当に飛び上がってしまったら、離れないようにしっかり腕を掴まないとね」
　柚春の言葉に、ウォルターは目を瞬いた。
　そして一言。
「一緒に飛ぼうよ。そのほうがきっとずっと楽しい」

　追加のお酒が、運ばれてきた。
　頭上の花火は円形のものからまた稲光へ。
　空が割れたかのような轟音と閃光は、花火というより雷雨のない嵐に近かった。
　空気が澄んだ冬空を彩るには美しいが、この花火おかげでお酒の名前も説明も聞き取れなくて、数種頼んだもののどれがどれだかわからない。
「普通のお酒なら、飲まなくてもある程度わかるんだけど、これは無理だなあ。初めて見るもの。ワット、どんな味？」
「ちょっと辛くて、温泉で飲んだお酒に似てるかな。ああ、でも……」
　なにかを言いかけていたウォルターの体から、ふわりと浮かびだしたもの。
　透き通ったウォルターの姿に、柚春は目を丸くして驚いた。
「えっ、これ、えっ？　もしかして、おばけ酒『童子切』！？」
　今年は今日で不思議納めして、本当の年末は二人でゆっくり過ごせたら、と思っていたが――。
（本当に今日で納めて、のんびりできるかなあ……）
　お酒を飲んだウォルターは、透き通る自分の体を眺めて笑っている。
「面白いね。こんな体験初めてだ。稲積、その『天狗の団扇盛り』を食べてごらん。飛行の力が発動したら、二人で飛んで行けるよ」
　花火輝く冬空の下を、二人で空中散歩するのはとても楽しそうだ。
　竜巻や稲光も、ウォルターと一緒ならば問題ない。
　柚春は微笑み、『天狗の団扇盛り』に箸を伸ばした。

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