あやかし忘年会、ひゅ～どろろ｜リアクション

あやかし忘年会、ひゅ～どろろ

●『あやかし忘年会』へようこそ

『あやかし忘年会』は、霊界の花緑青駅前で開催された。
　あちこちにテーブルや椅子がたくさん並び、お酒や料理がふるまわれている。
『あやかし忘年会』と名がついてはいるが、参加はあやかしのみならず。
　ひとやもれいび、ほしびとたちも、各々の時間を楽しんでいる。

　その賑やかな空間に、月原想花は紛れ込んでしまった。
「……ここは……どこ？」
（イベント会場なのはわかるけど……このあやかしたち、どう見てもコスプレじゃないよね？）
　眼鏡の奥の、真面目そのものの黒い目をぱちりと瞬く。
　と、武人風の板前さんと目が合った。右手に包丁。その隣には三つ目のあやかしがいる。
「わっ！」
　ぎょろんとした大きな目から逃げるように、想花はうつむいた。
　心臓がどきどきしている。
　あやかしが怖いからじゃない。見知らぬひとやあやかしとの接触に緊張しているのだ。
（……でも、この世界、面白そうでもあるんだよね）
　早く帰りたい気持ちと、もう少しいたい気持ちが半々。
　周りには、ひとなのかあやかしなのか、元気がいい声が響いている。
　その喧騒の中に、ふわりと風が流れた。

「ラッセル」
　聞き慣れた声に、桜井ラッセルは振り返った。
　あやかしたちの頭上から、すうっと降りてくる少女は――。
「晴月」
　無意識に、ラッセルの声が弾む。
　晴月はラッセルの隣に立つと、きょとんと首を傾げた。
「あやかしの忘年会、ラッセルも参加するの？」
「あぁ……なるほど」
（ひとよりもあやかしが多い気がするって思ってたけど、そういうことか）
　霊界関連の物事には多少は慣れたとはいえ、あまり得意ではない。
　そんなラッセルに晴月は、髪と同じエメラルドグリーンの瞳をきょろきょろさせて「あのあやかしは……このあやかしは……」と名前やエピソードなどを教えてくれた。
「晴月ってばホラーもイケるのか……俺より詳しいんじゃねぇ？」
「いろいろ勉強してるよ」
「じゃ晴月せんせー、今日は教えてくれよ」
　ラッセルが笑いかけると、晴月は「うん、いいよ」と頷いて、ラッセルに手を伸ばした。
「迷子にならないように、手をつなごう」

「今年はおばけ？　流行ってるのかな」
　あたりに行き交うあやかし達を眺めながら、稲積柚春は呟いた。
　これまでにも、不思議な体育祭をモチーフにした映画の試写会に当たったり、カメラが仕込んであるスキー板でスキーをしたり、しかも雪山のスタッフが雪山にいっぱいだったり、いろいろあった。
　そのよぎる思い出のどちらにも、ウォルター・Bがいることを嬉しく感じる。
　ふふふ、と笑うと、ウォルターは不思議そうに「どうしたの？」と聞いてきた。
　一緒にいるのが嬉しくて、と言うかわり。
　頬を染めた柚春は、あちこちに貼られているメニュー表を指さす。
「今度もほら、おばけメニューが食べられるって！　前にそんなメニューを食べた気がするけど、人気があったのかもね。あっ、お酒もあるみたいだよ」
「本当だ。へえ、不思議なことが起こるのか」
　ウォルターは興味津々で、メニューの説明を読んでいる。
　その横顔を見ているうちに、柚春の胸には温かい想いが広がっていった。
（ワットと一緒なら、どこに行っても何をしても楽しいけど、こういう不思議なことだとなおさらだな）
「花火も上がるみたいだし、それまでに軽く食べておこうか」
「いいね。稲積は何にする？　僕は……そうだなあ」

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