鍋、かまくら、温泉。｜リアクション

鍋、かまくら、温泉。

◆雪の温泉街

　御巫時子と五十嵐尚輝先生は雪の温泉街へやってきた。
　寝子島で１２月の積雪は稀だが、この数日は急に、局所的に雪が降り積もったらしい。そのため雪だるまを作ったり雪合戦をしたりと時ならぬ降雪を楽しむ人々の姿が見られた。

「綺麗な景色ですね。尚輝先生と来られて幸せです」

　時子は彼を誘ってよかったと心から思った。そのまま歩を進めると老舗旅館『かまくら屋』が見えてくる。ここの名物は毎年庭園につくられるかまくら。かまくらの中でいただく鍋は絶品だという。
　さっそくかまくらの中に入ってみると、思いのほか暖かい。２人は腰を落ち着けると、鍋の相談を始めた。

「鍋は寄せ鍋にしましょう。色んな具材を楽しめますし」

　ほどなくして運ばれてきた寄せ鍋は肉、野菜、魚介類と具だくさんだった。

「いただきます」

　時子は取り皿にいくつか掬うと尚輝先生に渡した。

「熱いので気を付けてくださいね」
「ありがとう」

　自分の分も取ると口に運ぶ。丁寧に下処理された食材に、味がしっかり染みている。

「おいしいですね」

　時子が尚輝先生のほうを見ると、箸を止めることなく食べている。その様子に時子も嬉しそうだ。

「どうかしましたか？」
「幸せだなって思って」

　尚輝先生の問いに、時子は偽りのない笑顔で答えた。時子にとって彼が食事をしている様子はホッとする。

「最近はちゃんと食事されてますか？」

　尚輝先生は１日何も食べなくても平気なタイプだが、心配になる。冬休みなので弁当を持って彼の元を訪ねるのも難しい。彼は食べていると答えるが、健康的な食事なのかは怪しい。だからこそ、様々な食材を食べていると彼女は安心を覚える。
　鍋を食べ終えてしばらく寛いだ後、２人は温泉に向かった。混浴ではないが、壁が薄いので互いの声は聞こえる。

「尚輝先生、お湯加減はいかがですか？」
「いい具合ですよ」

　他の客たちの迷惑にならない程度の声量で話す。先ほどの鍋の感想や今降っている雪のことなど、話題は尽きない。

「私は混浴でも良かったんですけど……」

　雪見風呂に浸かりながら、そんなことを小さく呟いた。温泉を出て合流すると、時子は尚輝先生に寄り添った。

「寒くないですか？」
「大丈夫ですよ。御巫さんも湯冷めに気を付けてください」
「ありがとうございます」

　そんなやりとりに体も心もぽかぽかするのを感じながら帰路に着いた。

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