鍋、かまくら、温泉。｜リアクション

鍋、かまくら、温泉。

◆思い出のもつ鍋

「かまくら……鍋……温泉……！！　いい響きですねぇ」

　倉前七瀬は目にしたチラシに並ぶ文字たちに胸を躍らせる。寝子温泉の老舗旅館『かまくら屋』がこの冬に打ち出したサービスらしい。折角ならばとウォルター・Bに声を掛けた。

「お忙しいかもしれんけど、僕と一緒にのんびり日帰り旅行なんて……ダメでしょうか？」
「楽しそうだねぇ、いいよ」

　こうして２人で温泉街を歩くことになった。この数日で急に、局所的に雪が降り積もったらしい。周りを見ると雪だるまを作ったり雪合戦をしたりと、それぞれの方法で雪を楽しんでいる。そんな様子を眺めながら歩いていくと『かまくら屋』に到着した。
　ここの名物は毎年庭園につくられるかまくらだ。

「かまくらって、なんだか秘密基地みたいでワクワクしますねぇ」

　七瀬は目を輝かせながら、かまくらの入り口をくぐる。その後を追うようにウォルターも中に入った。

「外は寒いのに、かまくらの中はぽかぽかしとって過ごしやすいです」
「ほんとだねぇ」
「この中でお鍋もいただけるなんて贅沢ですよね」

　メニューにおもむろに手を伸ばす七瀬。
　種類も豊富で、寄せ鍋、かに鍋、しゃぶしゃぶなど。そのなかで七瀬は気になるものを見つけた。

「お鍋、もつ鍋はどうでしょう？」
「ほう、もつ鍋かぁ」
「地元が福岡で、実家だと冬場によく食べてましたけど、一人暮らしだとなかなか機会がなくて、久々に食べたくて。よかですか？」
「もちろん」

　注文してからしばらく後。
　運ばれてきた鍋にはキャベツ、ニラ、ごぼう、豆腐など具沢山だった。そしてその中でも牛もつがひときわ存在感を放つ。

「美味しそうだねぇ」
「ですね。お店で食べるもつ鍋、家のとは違った美味しさがあります。うちの家のは、もつよりもキャベツがたっぷりでしたよ」
「家庭ごとの違いもありそうだねぇ」

　鍋をつつきながら談笑を楽しむ２人。気づけば鍋の具材もすっかり少なくなっていた。

「もつ鍋の〆というと、僕はちゃんぽんですが、ウォルターさんも一緒でよかですか？」
「いいよぉ」

　ウォルターは普段こういったものを食べることが少ないのか、麺が投入された鍋を眺めている。七瀬は慣れた様子で２つの器にちゃんぽんを盛り付けた。麺をすすると、先ほどとは違った食感で具材の風味を楽しめる。あっという間に完食してしまった。

「お腹いっぱい食べられました～。食事のあとは温泉ですね」

　少し体を休ませてから２人で温泉に向かう。露天風呂から見える冬の景色は澄んでいた。

「うおあああーーー、これは……染みますねぇ！！」

　外気の冷たさに対して温泉が温かく、心地いい。

「ずっと入っていたいけど、のぼせないよう気を付けますね」

　雰囲気を楽しむように２人はのんびりと温泉に浸かる。しかし七瀬はある不安がよぎった。

（結局、僕ばっかり楽しんでしまったような気がしますが……）

　一緒にきたウォルターはどうだろうか。そう思い、彼のほうを見る。

「ウォルターさんがゆっくりできたのなら嬉しいです。どうでしたか？」
「楽しかったよ、ありがとう」
「いえいえ！　こちらこそありがとうございます！」

　自分の心配が杞憂だったことが分かると、安堵の息をこぼした。

「また、一緒に来ましょうねぇ」

　ウォルターは小さく頷いた。
　とはいえ彼も忙しいだろうから、確約は難しい。それでも一緒に来れたら楽しいだろうという、確信に近い感覚があった。
　それから満足するまで温泉を堪能した２人は湯冷めに気を付けつつ帰路に着いた。

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