LIQUID -Star Chronicle-　三日月戦争編｜リアクション

LIQUID -Star Chronicle-　三日月戦争編

【ストーリークエスト『三日月戦争』（５）】

「こっち！」
　マーナの叫びに、アオイとシャローテは追従する。柱の陰を駆け抜け、驚く文官を突きとばし謝罪を叫びながら、宮廷の外へ向かって三人のメイドは駆けた。今は宮廷内の衛兵たちの目も地下室からの出火と、あるいはそこに発見された邪神信仰の痕跡へ向いているだろうが、いつ侵入者の存在に気づくか分からない。
　裏門へ続く石階段へ差しかかったあたりで、にわかに周囲が騒然とし始めた。みなボヤ騒ぎに気付き始めたのだろう。
　アオイらは足を止め、振り返る。
「……あいつ、追ってこないね？」
「あたしたちなんて眼中にありませんって感じ？」
「ナメやがって！　ですわ」
　ヴォーゲンリッター、火将フルミエールの企みは阻まれたし、あちらとしても宮廷内に留まる意味はないと判断したのだろう。
　しかし、少女然とした姿やこちらを見据える不敵な笑みとは裏腹に、瞳は燃ゆるようにぎらつきアオイを睨んでいた。またどこかで、相対することになるだろうか。
「次は、決着つけてやる」
　三人はクエストの顛末を報告すべく、足早に去った。

　空将ペトリュスの一撃は鋼鉄のハンマーもかくやといった破壊力だ。受けるたび凛風、ケイの剣は軋みを上げる。それでいて翼持ち空を舞い、スピードで翻弄してくるのだから手に負えない。
　濃密な一瞬の積み重ねにして、まるで永久にも思える戦闘が続く。
「凛っ……」
「大丈夫。ポラリス」
　悲痛な面持ちを浮かべるパートナーへ、凛風は振り返らぬまま優しく言ってみせた。
「僕は耐えてみせる。君は抜かりなく準備を」
「う……うんっ」
　猛攻に耐えながら、彼らは機をうかがう。空将もそれには気づいているようだ。
「なにか企むか。いいだろう、やってみるがいい。それくらいでなくては味気ないというものだ」
「いいのかい？　なら、遠慮なくやらせてもらおうか……＜桜花爛漫＞」
　桜の樹霊たる本質を現し、凛風は桜の花弁を刃となし、斬り込む。重厚な剣戟音が響く。
　ケイは凛風の真横につきながらサポートに徹し、凛風への側面からの攻撃を阻んでいる。そんなケイの背後からアヤカ、そしてソフィアも魔法の援護射撃を飛ばす。
「ケイさんは、私が守ります……！」
　キャットウォークを放ち、空将の弱体化を図る。またも持ち前の俊敏で逃れようとするが、
「逃がさない！」
　ソフィアの誘導魔弾が追い立て、アヤカの射程へと空将を追い込む。
「アヤカ、今よ！」
「ぬうっ……！？」
「ソフィアさん、ナイスです！」
　駆ける霊猫が敵の足元を捕らえ、空将の速度を殺した。
　ポラリスの青き瞳が開かれたのは、その時だ。展開する氷盾は６つ。翼持つヴォーゲンリッターの将を見据え、唱えた。

「……凍てつけ。＜極光白夜の銀界＞」
　氷盾の囲う領域は瞬間、極氷によって閉ざされ、
「ぐうっ、なんと……！？」
　ペトリュスの翼も全身も氷結させてゆく。そして。
「凛風！　みんな……！」
「ああ。幕引きだよ、空の将」
　凛風の一閃。ケイの必死の突きにソフィアの魔弾が収束し、炸裂した。
「おおおおおおおおおっ……！！」
　衝撃に彼らは飛び退り、空将を巻き上げられた氷霧が包み込む。
　ダイヤモンドダストをきらめかせる霧が晴れる頃。そこには、翼もがれ深く傷を刻まれた、ペトリュスのくずおれゆく姿があった。
「見誤った……か。見事、だ、人間…………」
　空将は地に墜ちた。
『……聞こえるか？　そっちの首尾はどうだ？』
　グループチャット機能を通じ、別行動を取っていた仲間からの声が届いたのは、ちょうどその時だった。
『急いでくれ。今ならまだ間に合うはずだ！』

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