【期末テスト】赤点？満点？？氷結、四日間の死線＜物語編＞｜リアクション

【期末テスト】赤点？満点？？氷結、四日間の死線＜物語編＞

　年の瀬が迫っていた。
　水谷真優理の勤務先の星ヶ丘の超高級ホテル、ステッラ・デッラ・コリーナは一番忙しい時期だ。
　そのせいで今日も残業だったが、でもいつもよりは早く上がれた。
「そうだ、帰る前に」
　職場を出る際に、予約していた最上階のレストランのビーフシチューの缶詰セットを受け取る。
　最高級品なので相応にお高いものだ。
　そしてシーサイドタウンにある自宅マンションへ帰っていった。

「ただいま」
　帰り着いたのは21時少し前。
　従妹の青山絢の部屋をのぞくと、彼女は机に向かって試験勉強に集中していた。
（明日は英語と美術と社会。初日の科目はどれも得意な方だから根を詰めなくてもいいかもしれないけど、油断して落とすようなことになれば目も当てられないので、やはり気を入れて最後の追い込みをしなきゃ）
　絢は思っていた。
（それに試験は明日のこの三教科だけじゃないし、苦手な分野もあるので、これらの勉強もやっておかないと……）
　テスト前夜であることは真優理も把握していた。
そっと引き返して部屋着に着替えて、料理の支度をする。
　と言っても、缶詰の中身を深皿に空けて電子レンジで温めて、それからバケットやサラダを用意しただけだが。
（しっかり栄養つけて温まって、勉強頑張ってほしいわ）
　支度が済んだので絢の部屋にそっと入り、後ろから肩をツンツン、それから優しくたたく。
　肩を叩かれること3度目。絢はようやく気付いて振り返り、笑みを浮かべた。
「真優理さん、おかえりなさい」
「絢ちゃん、お腹空いた？」
「あ、そういえば……家に帰ってからずっと机に向かってたっけ？」
「それじゃ、食べましょ。ステッラ・デッラ・コリーナのレストランのシチューがあるのよ」

　絢と真優理は、二人でキッチンのテーブルに着き、少し遅めの夕食を食べた。
「美味しい！」
　一口食べて、絢は声を上げる。
「良かったわ」
　美味しそうに食べる絢を目を細めて見ながら、真優理もシチューを食べた。
　そして思う。
（絢ちゃんは来年で寝子高を卒業する。マタ大と早稲畑大と扶桑大の演劇学科を受験するので、合格したらどちらかに進むわけで。できればマタ大に進んでくれればと思うけど……）
　絢とはもう、ただの従姉妹同士ではない。
　体を重ね、愛し合った関係だ。
　できることならずっと手放したくはない。
　けれど自分の下を旅立つなら、その時は笑って見送ろう。
　寂しさから目を背けながら、真優理は自分にそう言い聞かせている。
（絢ちゃんは新進気鋭の女優として注目を浴びているのだから、私だけが独占していい存在じゃない）
　そんな真優理の葛藤を知ってか知らずか、絢は幸せそうにスープを味わっている。
「さすが超高級ホテルのレストランの味ね。びっくりするほどおいしいけど、これってものすごく高いんじゃ……？」
　ふと気になって真優理を見る絢に、真優理は優しい微笑みを向けた。
「可愛い絢ちゃんのためならこれくらい大したことないわよ」
　笑いかけられ、絢は顔を赤らめる。

「ごちそうさまでした」
　食事を終えた絢は立ち上がり、
「ありがとう、真優理さん」
　と言って、自然な流れで真優理の頬にそっとキスをして立ち去った。
「あ、絢ちゃん……！」
　いきなり頬にキスされて、赤面する真優理。
　だが絢は振り返ることなく部屋に帰っていった。