【期末テスト】赤点？満点？？氷結、四日間の死線＜物語編＞｜リアクション

【期末テスト】赤点？満点？？氷結、四日間の死線＜物語編＞

　テストが返却された日。
　朝鳥さゆるは返却された答案用紙をカバンに入れると、そのまま自宅──恋人の姫木じゅんと同棲しているシーサイドタウンのマンションへの家路についた。
「……朝鳥さん相変わらず綺麗よね。でも最近どこか柔らかい印象になってきたんじゃない？」
　昇降口でそんな噂が耳に入ってきた。
「あたしも思ってた。20代半ばに見えて大人っぽいし、どこか近寄りがたい雰囲気だったんだけど、そういうとこがなくなってきたっていうか以前ほど重たい雰囲気じゃなくなってきたよね」
「どことなくメランコリィな感じはまだ残っているけどね」
　そんな噂を特に気にもせず、さゆるは自宅へ帰った。

　部屋に入ると、じゅんがキャバクラ『プロムナード』への出勤の準備をしていた。
「さゆる、お帰りー」
「ただいま」
「今日、期末試験返ってきたんでしょ。あたしに見せてよ」
「見てもつまらないと思うけど」
「いいから見せてよ、気になるじゃん」
　そう言われて、観念したように答案用紙を見せる。
「なにこれ……ほとんど満点に近いじゃん」
　じゅんが目を丸くする。
「現実世界にこんな答案実在するのね！　字も滅茶苦茶綺麗だし。さゆるって何者？　美人で頭よくて字も綺麗って、どれだけ設定盛り過ぎなんだか」
「設定って……」
　さゆるは少し戸惑う。
　ちょっと複雑だけど、これがじゅんなりの誉め言葉なのだろう。

　思えば３年前に両親を亡くし、親類もいない天涯孤独の身のさゆるはこうしてテストの結果を誰かに見せることなどなかった。
　どれほどいい成績をとっても嬉しくなかった。
　テストなんてただの紙切れにすぎなかった。
　それが今は、驚いて褒めてくれるじゅんがいる。
　さゆるはそっと微笑んだ。
　これが嬉しい、ということなのだ。

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