秘密の高級レストランにて｜リアクション

秘密の高級レストランにて

三折部朝衣は、思わず、自分の格好を確認した。定時で上がった日、丁度休みだった住沢遥人と待ち合わせをしていたのだが、気づけば夜の森の小道に立っていた。目の前には『restaurant』の看板が掲げられた洋館。どうやらレストランのようだが。
　そこで気づいた。自分たちの格好だ。朝衣は結婚式できたことのあるグリーンのワンピースドレス姿だった。仕事帰り私服だったはずがまさかの正装。このひらひらが中々に落ち着かない。
「！」
　隣を見ると、遥人もかっちりとしたスーツ姿になっていた。いつもとは少し違う婚約者の姿に、思わず格好いいと呟いてしまった。間髪入れずに『朝衣も似合ってる』と返され、少し照れる。
　そんなやりとりをしたところで、レストランの中へ。
　初老の執事服を着た男性ウエイターが案内してくれることに。
「ようこそいらっしゃいました。こちらへどうぞ」
　案内されたのはシャンデリアがかかっている個室だった。クロスの敷かれたテーブルと椅子が２脚。向かい合って座り、ドリンクを注文、その後料理のコースを決めるのだが。
「遥人はどうする？」
　朝衣は海の幸コースにした。自分の選択を伝えると、遥人は逆に山の幸コースに。
「お待ちくださいませ」
　ウエイターが出て行ったので、個室内をきょろきょろ。
「あの絵、縁が金で、絵の方も」
　遥人も頷いた。
「この前テレビで見たな」
　有名ではないが、評価されている絵の贋作だ。朝衣はごくりと息を飲んだ。
（あたしの年収でも買えるかどうか）
　とんでもない世界だ。
　やがて、前菜が運ばれてきた。
「山の幸コース、筍のだし醤油和えです。海の幸コースは海老とチーズのマリネです」
　それぞれ目の前に置かれる。
「いただきます」
　フォークを取って、海老とチーズのマリネを一口。
「ん」
　酸味と少しの甘味、そして　チーズの濃厚な香りが交じり合って、非常に美味だった。
「出汁が効いてるな」
　遥人が感心したように言う。出汁と醤油で味付けをしたサイコロ状の筍が食感も相まって美味しい。
「遥人」
　朝衣はウエイターが部屋を出て行ったタイミングで、フォークを海老とチーズで刺し、彼の口の前に。
「秘密。早く」
　遥人は少し照れながらもそのままあーんしてくれた。もちろん、その後にあーん返しを受けたわけだが。
　やがて、お互いのメイン料理が運ばれてきた。
「こちら、ヤマメとアユの抹茶塩焼き、そして鯛の塩釜焼になります。出汁入りのコーンポタージュ、山菜の天ぷら、タコの照焼」
　あっというまにテーブルの上に料理が並んだのだった。
「凄い」
　あまり聞かない料理名が多い。
　と、部屋にコック服の男性が入ってきた。
「今日はようこそ。料理長です。聞くところによると、洋食屋を経営されているとか」
「はい」
　遥人は頷いて、立ち上がると握手をした。
「どうですかな？　出汁料理は」
「ええ、コーンポタージュの風味つけがマッチしていて美味しいです。いや、本当にレベルが高い」
　お互い、自分の厨房で客に料理を振舞う同士、雑談に花が咲いているよう。
　食事を楽しみつつ、二人の料理人の談義をBGMに朝衣は微笑えんだ。

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