【コレだ！！！！】

　さてさて、やってきましたキャットロード。寝子島では旧市街の参道商店街に次いで年季の入ったアーケード型商店街で、食料品に日用品、アパレル、家具に家電、嗜好品に娯楽施設となんでもござれ。ここへ来れば手に入らないものはない！　と言われてるとか言われてナイとか……まあともかく、バリエーション豊かで多種多様、老舗も新しいのもいろいろなお店が建ち並んでおりました。
「こっちです。こっちこっち」
「久しぶりに来たけど、けっこう店、入れ替わってんなぁ。へえ～」
　物珍しげにきょろきょろするつるぎの手を引いて、やってきたのはキャットロードの中ほどにちんまりと店を構える、ちょっと小じゃれた雑貨店です。
　看板には、『piccolino』とありました。
「ぴっこ、りーの？　イタリア語？」
「小さくてかわいい、っていう意味らしいです。じゃあ、入りましょう」
「ん、おけー」
　ちりちりちりん。可憐な鈴の音とともに入店してみれば、なるほど。照明を抑えた雰囲気たっぷり、落ち着いてやわらかい木造の店舗に所狭しと並ぶ品々の数々は、どれも可愛らしいものばかり。インテリア用の小物や食器類はおしゃれで小粒でちまっこくて、見ているだけで飽きません。それでいて本格的な実用品も多く並び、品物のラインナップは幅広く、さらには定期的に入れ替わるので、いつ来ても新鮮な出会いがありました。ここ最近の、綾花のお気に入りなのです。
「はえー！　こりゃ楽しいッスなー」
　つるぎもわくわく、興味深そうに店内を見回しております。綾花はくすりと笑って、
「あっちが猫グッズコーナーになってて。後で見ましょう。で、こっちに気になっている品物が……」
　渋い光沢を放つ木造りの棚を迂回し、レトロな日用品が揃うコーナーへ。手回し式のコーヒーミルやサイフォン、ティーポットやキャディースプーンが並ぶ棚のお隣に、綾花のお目当てがありました。
「おお。なるほど……ワインオープナーって、こんなに種類があんだねえ」
「そうなんです。もう迷っちゃって……」
　珪先生は、ワイン好きだそうでして。長年使いこんだワインオープナーが壊れてしまって、買い替えを検討していると聞いたのが先日、秋の終わりごろ。その後新しいものを買ったという話も聞いていないので、このタイミングでのプレゼントにはピッタリというもの。
　そんなわけでこのお店のオシャレなワインオープナーの中から、手頃なお値段かつアンティークでカッコイイものを選ぼうと決めた……はいいものの、品揃えの豊富さがかえって裏目に出てしまいました。なんたっていっぱいあるもので、決められない！　ヘルプ！
「ええと。珪さんが使ってたのが、このスクリュープルってヤツ……だったっけ？」
「はい、比較的初心者向けのタイプだそうです。私が気になったのは、このウィングタイプのものなんですけど」
「おー、こりゃカッコイイね」
「でも構造上、ヴィンテージワインには向かないらしくて。コルクが古くなってると、割れちゃうことがあるんだそうです。ほかには十徳ナイフみたいなソムリエナイフとか、ハサミ型のプロングタイプとか、Ｔ字型のスクリュータイプとか、いろんなのがあって……」
「ははあ」
　唐突な『ははあ』に顔を上げると、つるぎのにまにま顔。
「詳しくなっちゃってまぁ。珪さんのために、いーっぱい勉強したわけだ。愛ッスなぁ、愛」
「…………」
　確かに、夢中になって調べたのは事実。ぽわ！　っと綾花の鼻も耳もほっぺたも、瞬間湯沸かし器並みに沸騰しました。
「も、もう……からかわないでください！」
「いやぁ、恋だねぇ。乙女ッスねぇ、綾辻ちゃん」
「もう！　つるぎさん！」
　なんてやりとりも交えつつ。
　実際、候補となる品はいくつもあって、選ぶのは大変です。つるぎの意見も参考に、絞り込んでいきます。
「まずさあ、この電動式ってのは、ナイよね？」
「そうですね。アンティークなのが欲しい、って言ってましたし」
「まぁわたしがワイン派なら断然これだけど、珪さんにはもう少しさ、カッコつけてほしいわけ」
「うんうん……！」
「となるとやっぱし、プロング式かソムリエナイフだよね。想像してごらんよ、綾辻ちゃん」
「？　なにをですか？」
　す、と仰々しく手を掲げ、つるぎは綾花の内に微笑む珪先生の姿を呼び起こします。
「珪さんがこれを使って、ワインをカッコよく開けるところをさ。どれが一番カッコいい？　どれが一番がセクシーだい？」
　ほわほわ、ほわわん。導かれるままに、綾花は想像します。
　珪先生が、腕まくり。意外にたくましい二の腕をさらしながらワインボトルを手に取ると、見守る綾花へにっこり、笑顔をひとつ。華麗な手さばきでコルクを引き抜き、グラスへ蠱惑の液体を注ぐ、その流麗かつセクシーな仕草ときたら……！
「ね。おのずと定まってくるんじゃあない？」
　にっ、と口元をつり上げたつるぎといっしょに、指差しました。ふたりの指がぴたりと止まったのは、同じもの。
「「ソムリエナイフ！」」
　と、いうわけで。珪先生へのバースデープレゼントは、レザーのケースに収まった、アンティークで格好いいソムリエナイフのワインオープナーに決まり！
「あ、名入れもしてくれるんだね。入れてもらう？」
「もちろんです！　あ、そうだ、猫グッズコーナーにかわいいボトルストッパーがあるんです。それもいっしょにプレゼントしようかなって。選んでもらえますか？」
「おー、いいじゃん！　まーかせて！」
　『K.HAYAKAWA』の名を入れてもらったソムリエナイフと、つるぎの選んでくれた黒猫のシリコン製ボトルストッパーをいっしょに購入し、ほくほく。
　誕生日の日、これを渡したら、彼はどんな顔をするでしょう。喜んでくれるかな？　綾花の笑みは深まりました。