焼きそばパン、バトルロワイヤル！｜リアクション

焼きそばパン、バトルロワイヤル！

プロローグ～居合わせた人々

「なんだ、これ」

　１２月、天気のいいある日の午後。
　シーサイドタウン駅前の噴水の前で、海道千里は困惑していた。
　本土に住んでいる千里は、寝子島に住む友人・桜井ラッセルと待ち合わせて寝子島観光をする予定だった。ところが待ち合わせの彼が来る前に、テオが切り分けたバトルロワイヤルな寝子島に巻き込まれてしまったのである。
　千里は『寝子高売店と同じ味！　おばちゃんのパン屋さん』と書かれた白いワゴンカーを凝視する。
「焼きそばパンが一つしかないのか」
　千里の脳裏に、友人ラッセルの言葉が蘇る。

………………
『寝子高の焼きそばパンすっげー美味いんだ。
寝子高生だったら海道にもすすめたのによー。
あ、店出すって言ってたな』
………………

「桜井のあの言葉に感化された？」
　ともかく今はほしい！
　千里は手にしたバットを握りしめる。これが千里の武器。
　野球選手がくるお店に行くから、会えるかも、サインもらえるかも、とバットを持参していたのだ！

◇

　海道と、噴水を挟んで反対側に、仙藤紫と仙藤蒼がいた。
　紫は妹・蒼を見る。
「どうしてかしら。焼きそばパンが強烈に食べたいわ」
　蒼も姉・紫を見る。
「どうしてかな。私もだよ、お姉ちゃん」
　二人は普段はとても仲の良い姉妹である。
　だがこのとき、二人の心には謎の闘志が宿っていた。
（妹に）
（お姉ちゃんに）
（（負けられない！！））
　紫の手にはいつの間にか拳銃（グロック17）が握られている。
　蒼の手にはデザートイーグルが。
「これはもう姉妹対決は不可避ね、蒼」
「そうみたいだね、お姉ちゃん」

◇

　楡宮遠海もこみ上げる『焼きそばパン食べたい欲』にムズムズしていた。
　もともとはmiao駅ビル内の楽器屋をのぞきに行くつもりだった。
　でもその前におなかが空いたので噴水辺りに出ている屋台でなにか食べようと駅前広場を訪れたところで、この怪現象に巻き込まれてしまったのである。
「焼きそばパン食べたい食べたい食べたい……え、１個しかないの？」
　遠海は、そのスレンダーな見た目からは想像もつかない規格外の食欲魔人であった。
　どう考えても焼きそばパン１個じゃ足りないのだけれど、１個も食べられないのもあり得ない！
「このバトルロワイヤル、参戦するしかないじゃない！」
　遠海は、いつの間にか両の手の中に納まっていたトンファーを、ちゃき、と構える。

◇

「焼きそばパン！ ……食欲をそそられますね」
　メイド服姿の桧垣万里は、おっとりと首を傾げる。
　万里はメイド喫茶『ねこのて』の店長代理で、メイド服なのは、バイト中に巻き込まれたからだ。
「ご主人様達を魅了する焼きそばパン。ぜひ手に入れてその秘密を明らかにしたいものです。そしたら、皆さんに私の作った焼きそばパンを振る舞えますし」
　と、万里は愛らしく人差し指を立てる。
「……いえいえ、ただ単に自分が食べたいから、というわけではないのですよ？」
　誰にというわけでもないが言い訳をして、万里はスカートの裾を品よく持ち上げる。
　スカートの下から現れたのは、絶対にそこに入らないだろうというサイズの日本刀であった。

◇

　そして、中二病よろしく片目を抑える野々ののこである。