焼きそばパン、バトルロワイヤル！｜リアクション

焼きそばパン、バトルロワイヤル！

メキシカン・スタンドオフ

　千里と遠海が姿を隠すと、蒼と紫はそれを追うではなく、すかさず体の向きを変えた。
　素早い判断で、ののこと万里にターゲットを変えたのだ。
「難しい小細工してる暇なくてごめんね」
　ゲームで鍛えた蒼が放つ弾丸が、ののこのこめかみを打ち抜く！
「……！」
　一瞬目を見開き、次の瞬間、ののこが倒れた。
　銃弾はもう一発。紫が放った弾が、万里を狙っている。
「！」
　辛うじて弾を刀身で弾き、そのまま地面を転がって物陰に隠れる万里。
（焼きそばパンのワゴンから離れちゃいましたが……）
　万里は首だけ伸ばして、状況を確認した。
　この状況にもかかわらず、おばちゃん（田中さん）は、ワゴンのところでニコニコしている。
　神魂の影響だろうか、それとも異様に肝が据わっているのだろうか。
　ともかく、ワゴンの傍らに立つおばちゃんの笑顔がゴールだ。
　『寝子高売店と同じ味！　おばちゃんのパン屋さん』と書かれた白いワゴンカー。
　あそこまでの距離はそうないはずのに、今はとても遠く感じる。
　ののこは倒れたままだ。蒼のヘッドショットが完璧に決まったのを見た。ここで離脱かもしれない。
　この瞬間、ワゴンまでのルートに立っているのは蒼と紫だけである。
（あの二人、隙がないですね。でも、焼きそばパンはひとつ。どちらかしか手にいれられない。なら……）

　――姉妹は最終的には対決するより道はないはず。

　そんな万里の予想は的中した。

◇

　千里、遠海、万里が身を隠したことで、立っているのは蒼と紫のみとなった。
　ライバルたちが身を隠す中、まっ先におばちゃんのところにたどり着いて「焼きそばパンください」と言った者が勝者。
　蒼が駆けだす。
　その前に立ちはだかるのは、姉、紫だ！

「そこをどいて、お姉ちゃん」「悪いけどそうはいかないわ」

　紫はグロック17の銃口を妹に向ける。蒼は油断できない。
　彼女より銃の腕が劣る自分は、先に仕掛けるよりほかないだ。
「……そう。姉妹対決は避けられないってワケ」
　蒼もまた、デザートイーグルの銃口を姉に向けた。
（ここで退くわけにはいかない）
　蒼は姉の額のど真ん中に照準を合わせる。
（ここで退けば、焼きそばパンは姉の手の中に落ちる。そしてきっと、私の目の前でこれ見よがしに食べて悔しがらせるに違いない！）
　普段の紫ならそんなことはしそうにないが、神魂の影響でどうなるかわからない。
「ごめんね、お姉ちゃん」
　トリガーに掛けられた蒼の人差し指に力が籠る。
　火を噴くデザートイーグル。
　だが、紫もそれに劣らなかった。逃げるでなく、むしろ一気に蒼に向かって駆けだしたのだ。
　銃弾が紫の髪を掠め、おくれ毛を弾き飛ばす。
　それでも紫は止まらない。
「妹だからって負けられないの」
　紫は二連発でグロック17の引き金を引いた。
　蒼は咄嗟にそれを避けた。それでも弾の一発が、利き腕とは逆の腕を掠めて、血が筋となって宙に散る。

◇

（すごい……！）
　物陰から姉妹対決の様子をうかがっていた遠海は舌を巻いた。
　攻防は一進一退。
　どちらも手ごわいガンスリンガーだ。
　その姉妹が、今は互いを不倶戴天の敵と定めて戦っている。
　嬉々と戦う蒼と紫の気迫に呑まれて見入っていた遠海だったが、はたと気づく。
（もしかして、彼女たちが同士討ちしている今がチャンスじゃない？）
　そう判断した瞬間、遠海は駆けだしていた。
　猪突猛進に。
　紫と蒼が飛び出してきた遠海に気づく。
　姉妹は同時に遠海に銃口を向けた。
　トンファーはふたつ。左右に振るって、紫と蒼を蹴散らす――と見せかけて、フェイント。
　身をかがめて、放たれた銃弾を避ける。
「いただくわ、焼きそばパン！」
　駆け抜けようとする遠海。
「そうはさせない！　焼きそばパンは私のものよ」
「お姉ちゃんも！　簡単に通れると思わないで」
　紫と蒼が立ちはだかる。
　その瞬間、三人は三つ巴で互いに互いをけん制し合う、いわゆるメキシカン・スタンドオフに陥った。

　――この膠着状態を抜け出し、焼きそばパンを手にするのは誰なのか？

　放つオーラは互角。
　誰かが誰かに攻撃を仕掛ければ、残ったひとりにやられる。
　それが、わかる。
　三人はごくりと唾を飲み込み、機を伺う。

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