ラビリンス・オブ・オンセン｜リアクション

ラビリンス・オブ・オンセン

「よいしょ！」

　飛び出してきたアワワゴブリンを、ウォルターと協力し、シャワーを浴びせて追い打つ柚春。
　
（って、あれ･･････）

　おとなしくなったゴブリンの、肌が赤く腫れているのに気づく。
「この子……肌が炎症を起こしているみたい」
　柚春が指で示すのを、ウォルターが覗き込む。
「石鹸はアルカリ性が強いからな……闇雲に使ったりすると危険だ」
「人に向かって吹きかけるなんて……」

　小柄な鬼のモンスターであるのも構わず、柚春はゴブリンの肌に顔を寄せて、仔細に観察する。
「洗浄力が足りない？　それとも染みたりするのかな？」
　やさしい問いかけに、涙目を向けるゴブリン。
　にっこり笑いかける柚春に、緊張を解く様子だ。
「とりあえずぬるま湯で洗い流してケアしてみようか」
　人肌にした湯を、じっくり丁寧にゴブリンの膚にかけていく柚春。
　顔を顰めるたびに「大丈夫？」と訊ねる。
　
「いい人ですね」
　誰かの言葉に、ウォルター・Ｂは胸を張って頷く。
　
「知能があるみたいだ。話しかければわかってくれるのかな」
　様子を観察していた蒼也が呟く。
　
　よく乾燥した清潔なタオルで拭き取って「洗い残しも肌荒れの原因だから」とアドバイスを与える。
　
　さて、先に進もうとすると……。
　
「ゴブリンがついてくるの」
「え？」

　先ほどの、肌を治療したゴブリンが、柚春とウォルターのあとを付いてくる。
「懐いたみたいだな」
　修が興味深そうに見つめる。
　
　ゴブリンを抱え上げながら、柚春は考える。
　どうやら、自分のフレグランスの知識が役にたちそうだ。

　それならば――。

　――ゴボボボボボ。
　
　都合よくあふれ出てきたアワワスライムに、柚春は駆け寄る。

「彼ら自身が石鹸なのかも――透明感に個体差があるね」

　攻撃しようといきり立っていたスライム、不意の行動に思わずびくりとなる。

「不透明な君は――オイリー肌に向いているよ」

　アワアワになるのを軽快して、距離を置きつつも、柚春はスライムに視線を合わせた。

「きっと君も、お仕事を頑張っているだけなんだよね？」

　スライムの動きが止まり、一つぴょんと跳ねると、すすっと泡ゴブリンのそばににじりよった。

「仲間になってくれたの？」

「知性のある個体だったみたいだな。話してわかる相手もいるかもしれない」

「……もしかしたら、俺のろっこんがきかないか？」

　何か閃いた七尾、じりりと前衛に出る。

　折良く、アワワペンギンがこちらに向かっている。

「ろっこん発動――＜頼む＞！」

　七尾の交信タイプろっこん――＜頼む＞。
　その効果、動物との交信。

　普段から子犬を拾ったり、動物好きの七尾。
　話せばわかってくれる。その確信がある。

「――わかってくれたみたいだ」

　ペンギンから向き直り、笑顔を皆に向ける七尾。
　頷くアワワペンギン、七尾の背後に整列する。

「凄いの！」
　ステラが喝采する。

「テイマーが二人増えたな。心強い」
　修が頷く。

　その瞬間、スライムがあふれ出してくる。
「テイマー、頼む！」
「任せろ！」
　飛び出してきた七尾。
　スライムに話しかけようとする。
　――。

「スライムはムリだった！」
　腰のタオルをはじき飛ばされ、あわてて局部を隠しながら敗走する七尾。
「スライムに張り付かれるのは生理的にダメ！」
　