君の音は何色を示す｜リアクション

君の音は何色を示す

　気の早いクリスマスソングが流れ始め、ひとつふたつと飾り付けが増えていく。
　まだ12月になったばかりなのになぁと思うこともあれど、楽しそうなイベントを待つ時間だからこそ、少々早いくらいで丁度良いのかもしれない。
　特にその日の予定がまだ決まっていなかった倉前七瀬は、眼前に現れたクリスマスツリーを眺めていた。
　といっても、今は電飾もオーナメントも飾られていないもみの木の状態だ。
　そう代わり映えしないようで、毎年テーマに沿って趣向をこらしているらしいが、今年はどんな姿になるだろうか。
　定番が決まっているようで、何も飾られていない今なら、何にでもなれる無限の可能性を秘めているようにも思えた。

　店の軒先にある小さなツリーも、駅前広場に立つ大きなツリーも。
　同じくツリーと呼ばれ、土台もそう変わること無くもみの木を模した物で大きな違いは無いはずなのに。仕上がりはひとつとして同じ物がない姿になる。
　使う飾りが同じでも雰囲気は変わるし、同じ飾りを使わなくてもいい。
　たまに、ホワイトツリーなんて違った物もあるけれど、そこまで主張しなくたって違いは十分にある。
　それがなんだか、違って良いんだと言われているようで。
　この先の未来が広がっている気がして、誰かに伝えたくてたまらなかった。

　初めて辞典を開いたように。
　知識が増えたことを得意げに話す子供に見えたって良い。
　この温かさを、ウォルター・Bに伝えたなら――あの時のように『知ってる』と笑うだろうか。
（……それでも）
　教えてあげたいと思ったから。
　伝えたいと思って、七瀬はスマートフォンに手を伸ばす。
　どこに居るかわからなくても、声を届けることができる便利な道具。でも、いざ電話をかけようとして画面に名前が表示されると、その無機質な文字に少し躊躇った。

　伝えたいのは、こんな冷たいものではなくて、温かな願い。
　明確な言葉にして通り抜けてしまうのなら、反芻したくなる優しいメロディに乗せて届けたい。

（意味なんて、なくても……）

　祈りが、涙を拭く風となりますように。
　思いが、角砂糖ひとつぶんに足りないほど小さくても、確かな幸せとなりますように。

　次の行き先を見付け、橋を渡る日が来ても。
　それが遠い場所だとしたって、渡れることを願うだろう。
　ウォルターが望むのなら、笑顔でいられるのなら、幸いに思って。見送れと言うのなら――。
（うちの、居場所は）
　橋の下で見守るにしても、同じく橋を渡るにしても。
　いつだって、いつまでだって。夕陽が窓に反射しても夕陽であるように、気持ちは変わらないのだろう。
（……うちだけの、場所で）
　共にと願うのは、心かこの身か。
　どのような形であれ、一緒にいられることを願っているから。

　届けておくれと願うなら、届けてしまえ。
　七瀬はスマホを握りしめたまま、星ヶ丘の方へと駆け出していた。

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