君の音は何色を示す｜リアクション

君の音は何色を示す

　小さな公民館での触れ合い音楽会から、大きなホールでの演奏まで。
　企業楽団に所属する木野聖華は、専門学校に通いながらパーカッション奏者として充実した日々を送っていた。
（……うん。充実だろ、これは）
　入団したての春のうちは、現場の見学も兼ねて雑用をこなしていたけれど、夏には楽器の経験を買われて球場や祭りを盛り上げるべく野外演奏に奏者として立つことができた。
　芸術の秋ともなればクラシカルな演奏会の需要は増え、時折スタジオに籠もってはドラムセットを気の済むまで叩いて、リフレッシュも忘れない。

　音楽に関わることができる。
　これを生業として続けられるかはともかくとして、二足のわらじ状態の今であれば、不満などないはずだ。
　誰から見たって、それこそ自分だって、充実していると思っているのだけれど。

　――でも、なぜだろう。

　冬になって景色がくすんで見えるからか、クリスマスを前に慌ただしくなったからか。
　どこか音に物足りないような気もして、聖華は通りを賑わすクリスマスソングに耳を傾けた。
（別に楽曲が偏ってるわけじゃないんだよな）
　厳かな楽曲もポップな楽曲も。クリスマスに求められるイメージは多種多様で、会場毎に求められている音を探して練習をしている。
　街も飾り付けが進み賑やかなのに、どうしてこんなに足が重いんだろうか。
（練習が多すぎる、とか？）
　プライベートな時間が減って疲れているのかとも思ったが、じゃあ休暇があったら何をするかと言われたら、相棒を磨いてメンテナンスをしたりと、結局音楽に関わっているだろう。

　楽器に触れることは嫌いじゃない。
　寧ろとことん向き合って、納得のいく音が出るまでぶつかり合うくらいには好きだ。
　これが比喩では無く、本当に気の済むまでぶつかり合うおかげで、ドラムの皮を叩き破ったことがあったりもしたが――湧き上がる情熱というのも、演奏家には必要だろう。きっと。
（あれは痛い出費だったな）
　懐かしい。
　あれは何年生の頃だったかなと思い馳せ――学生服の少年少女らが横切るのを目で追う。
　部活帰りか、それとも制服デートなのか。ともあれ学生期間にしか着られない服で青春を謳歌しているようで何よりだ。

　ショーウィンドウの窓ガラスに映る自分にくすりと笑う。
　制服を着ていた頃でさえ、スカートの下にジャージを履いていたというのに、卒業した今となっては、もっぱらパンツスタイルばかりだ。
　色気という点ではスレンダーなことも相まって、実用性を優先した衣服に求めることではない。
　演奏会に適した礼服は持ち合わせていても、華やかで愛らしい物はクローゼットにあるかどうか。
（もし……）
　どうせクリスマスも演奏会の予定があるし、声が掛かると思っているわけでもない。
　パーティは楽しませる側になるのだから、必要はないのだけれど。

（……もてなされる側だったら、少しくらいは）

　ドレスを着ている自分を想像して、らしくないかと笑った。
　嬉しそうにヘアメイクをしてくれる人もいるけれど、あのハリネズミ頭は何があったかと瞬くことだろう。
（そうだな）
　誰かを元気づける音は、顔を上げさせる。そこにはきっと、千紫万紅な世界がある。

　どちらかじゃ足りない。
　音色と色彩が重なれば、顔色と声色を変えさせて、気色が変わる。
　鮮やかさをつれてくるのはきっと――。

　真っ直ぐ帰ろうとしていた足は自然とストリートアートを探すため遠回りをする。
　どこかの店でペイントをしているだろうか、いつもの場所で新作を描いているだろうか。

　足りない物がわかった今、迷い無く譜面に書き足すのは――espressivo!

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