心を込めて、したためて｜リアクション

心を込めて、したためて

　笛吹ぴりりが帰ってきたのか、ドアを開ける音がした。
「ただいまです」
「おかえりなさい。……それは？」
　ぴりりが愛猫萌々子の机の上に、何やら封筒を置いたのだ。
「萌々子さんと私宛なのです。宛名がないのですが……心当たりあります？」
　萌々子は手にとって、裏返してみる。手紙のやり取りをしている人はいないし、封筒も見覚えのないものだった。
「知らないですね。ぴりりちゃんも、分からないんですか？」
「まったくなのです」
　肩をすくめるぴりり。
「開けてみても良いですか？」
「はい」
　ぴりりの許可を得て、封筒の端をハサミで丁寧に切り取り、中から折たたまれた便箋を取り出した。
　萌々子はぴりりと顔を見合せ、それを広げてみた。

『こんにちは。
私は陰ながら応援するおふたりのファンです。
風紀委員として校内でびしっと指導している姿を何度も見てきました。どんな状況でも切り込んでいけるぴりりさんと、行き過ぎた時に止められる萌々子さんの姿は寝子高最高のコンビとすらともっていたのですが…
今は萌々子さんが生徒会に移ったため風紀委員コンビが解散されてしまって非常に残念に思っていました。
でも、それは萌々子さんの意思でそうなったことなので私がどうこう言うのはやめて、これからも応援していきます。

ぴりりさん　前にも言われたかもしれませんが一人で抱え込みすぎないで、周りの人を頼ってください。息抜きで遊んだりするのも悪くないですよ。どうか頑張りすぎず頑張ってください。

萌々子さん　あなたと先輩とのやりとりが、自分の高校生の頃と重なって微笑ましく思っています。これから先、あなたや大切な人が青黒い闇のような困難にあっても打ち勝てると信じています』

　読み上げた萌々子はもう一度ぴりりと顔を見合わせた。
「ファンレターです？」
「芸能人とかスポーツ選手なら分かりますけど、風紀委員のファンは珍しいですね」
　萌々子は、うーんと考え込む。
「学校の人、ですかね？　むう、私の性格を完全に把握されてしまってるのです」
「よく見てるみたいですね。……でも」
　同じ学校の人でなければ分からないことがたくさん書いてあるのは確かだが、
「高校の頃ってことは高校は卒業済みの方でかもしれませんね」
「確かに、です。ん？　てことは……どういう」
　萌々子は考える。
（ストーカーと考えるのは簡単ですけど、なんだか上の方から優しく見守ってくれてる感じがしますね）
「差出人が書いてない不気味な手紙なのに、凄く心配されてる感じがするのです」
「私も思いました」
「やっぱり、息抜きというのを練習すべきですね」
「ぴりりちゃん、難しく考えすぎですよ」
　真剣な顔でいうぴりりに笑ってしまった。
　それから萌々子はもう一度、自分への文を読む。
（私や大切な人が、困難に打ち勝てますように……ですか）
　自分もそう願わずにいられない。理由はわからないし、奇妙な手紙ではあるが、とても心に響いた。
「いつか会えたら、良いですね。あなたと」
　萌々子はそっと便箋を閉じた。

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