心を込めて、したためて｜リアクション

心を込めて、したためて

　桜井ラッセルは自宅のポストの前で首を傾げた。
「俺宛？　覚えねーんだけど……でも見たことある字のような」
　封をしてある三つ葉のシールを外す。
　中から出てきたのはお洒落な便箋だった。絵柄は一羽の黄色いカナリアが青空を飛んで、下にはクローバー畑が広がっている。

『桜井ラッセル様

匿名でごめんなさい。でも感謝を伝えたくて筆をとりました。
私の満喫できなかった代わりの想い全てをあなたに託しました。
分身であり、憧れであり、再来であり、思いの丈であり、唯一無二です。最初で最後にしようと思ってます。
寝子島で笑って学生生活を送ってくれる。それだけで救われます。
きまぐれでも帰ってきてくれてありがとう。

思い残すことがないようこれからも楽しんで下さい。遠くから応援しています』

ラッセルはぽかんとしてしまった。過去に人助けでもしただろうか。文面からも嘘偽りない感謝が伝わってくる。匿名なのにまったく嫌な感じはしない。
　しばらく考えて、ラッセルは家の中へ。自分の机に座ってもう一度文面を目で追う。
「うーん」
　なんとなく机に取り出した金の鍵とチェーンを見つめる。それぞれの思いを巡らせていると、なんとなく思い出の一部のような気がしてきた。
「懐かしい感じがするな」
　まるで、旧友との突然の再会のような。
「……ちゃんと、笑顔で過ごせてるからさ、安心してくれ」
　ラッセルは古い便箋を取り出した。
（俺も返事を書こう）
『名前も知らない誰かへ。
手紙、ありがとう。上手く文章に出来ないけど、凄く嬉しかった。一緒に歩んで行こうってことは、いつかどこかで会えたりするのか？　もしそんな日が来たら嬉しい。
俺は幸せだから寝子島へ連れてきてくれてありがとう

桜井ラッセル』

　この便箋に応えるように、カナリアの水彩画を栞として添えることにした。
「リボンで結んで。できたー！」
　すぐに出しに行こう。本当は空を飛んで行きたいが、とりあえずポストまで。
　窓を開けて、ラッセルは鍵を握りしめた。
（伝われば良いな）
　一羽のカナリアは、机の上で手紙をそっとくわえた。

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