心を込めて、したためて｜リアクション

心を込めて、したためて

　鴻上彰尋は公園のベンチに座っていた。先程文具店で買ったルリマツリの花が描かれた便せんと封筒を持っていた教科書に重ねる。丁度よい硬さなので、この場で文章は書けそうだ。
「嬉しそうだったな」
　偶然見かけた七夜あおいが友人と楽しそうに話をしているのを聞いてしまった。彼女はファンレターをもらったらしい。
　嬉しそうに封筒を見せている彼女を見ていたら、自分も書きたくなったのだ。
「改めてラブレター……はちょっと違うな」
　考え込んだ挙げ句、彼女にかけたい言葉を文章にすることにした。

七夜あおい様
私はある男の子から貴女の事をよく聞いていて、いつしか自分自身が貴女の活躍を追う様になりました。

貴女のいちファンとして、このような形で文を送れることをとても嬉しく思っています。

特にお料理の腕も少しずつ上達していく様子を見るのがとても好きで、美味しく出来た贈り物（ケーキ）を受け取った彼は、きっと家族と一緒に楽しんだと思います。
時折うっかりな失敗をする所も可愛らしいです。

最近の話題といえば、専門学校の推薦の件ですね。
合格おめでとうございます！

普段とても明るく元気な姿を見かける事が多い貴女が、進路で色々と悩んでいたことを私は知っています。
そうして決めた希望が叶ったことを自分の事の様に喜んでしまいました。この先待っている新生活に期待が膨らみますね。

寝子島から九州へ行く事は寂しく思いますが、これからの七夜さんが幸せである様にと心から願っています。

　そこまで書いて、彰尋はふっと息をついた。あおいへの思いをすべて注ぎ込んでしまった。誤字がないことを確認し、丁寧に折りたたんで封筒へ。内側にはルリマツリの花が淡いタッチで描かれている。のりで封をして、鞄の中へ。
「ここまで来たら出そう」
　せっかく書いたのだし、彼女が少しでも笑顔にしたい。
「何を出すの？」
「！！」
　振り返ると。まさに今想っていたあおいが立っていた。
「あおいさん？　なんで」
「たまたま通りかかって、姿が見えたから」
　あおいは微笑んで、少し離れて隣へ座る。
「何か悩み？」
「ああ、いや。そういうのじゃないんだ」
　と、あおいが彰尋の手元へ視線を向ける。
「それ、便箋？　あ、この花って」
「ルリマツリ。花言葉は「いつも明るい」「ひそかな情熱」だそうだ」
「へぇ〜。こういう便箋で送られてきたらテンション上がるね」
「そうなのか」
「可愛いし、センスあるよね！」
　彰尋は鞄へ視線を向けてから、
「そういうものなのか」
「そういうものだよ、彰尋くん」
　その後は雑談をしながら時間が過ぎて行った。
（ここで渡すのもいいけど、やっぱり）
　早く封筒に住所を書いてポストに投函したい。どんなふうに、思ってくれるか、今から楽しみだ。

このページにイラストを設定する