心を込めて、したためて｜リアクション

心を込めて、したためて

稲積柚春はたまたま見かけたお手紙企画コーナーでレターセットを購入していた。
（僕が学校に慣れてない頃からウォルターさんは手紙をくれたよね）
　ウォルター・Ｂの顔と当時のことを思い出し、笑みが溢れる。
　今度は自分から、書いてみようと思ったのだ。

『ウォルター・Ｂ様

こうして文面で心を通わせるのは久しぶりですね。
僕を見ていると、不思議な気分になる。なんて言ってくれたけど、この手紙を読んでくれたなら、同じ気持ちになってくれますか？　僕を思い出してくれたら、凄く嬉しいです。
　実は先月アロマ検定の試験を受けてきました。
実力試しだしって、思いきって１級を。
　結果は今月には出るから、冬休み前には報告できると思います』

そこまで書いて、ふっと息を吐く。それから下の方へ。

『ウォルター先生へ。ちゃんと生徒としての進路は進んでいるから』

　と、書き加えた。
（直接、渡そうか……）

　稲積柚春の父です。
ウォルター先生には娘が大変お世話になっていると聞き、ご挨拶をしたく一筆とりました
あの子は私どもの都合で転校が多く、誰かに特別心を開いたような素振りもなくて心配だったのですが、最近の日常報告には聞いているこちらが嬉しくなるほどです
そろそろ子離れしなければと一人暮らしをさせたのが良かったようで安心しています。
　先生から見て、娘には良い相手がいそうですか？
あの子はいつも先生の話ばかりで……もしやと私どもは学生結婚でしたから、娘にも早く幸せになって欲しいものですね！』

　散歩の途中、見かけたベンチに座ったウォルター・Ｂは、柚春父からの手紙を読み終わった。くすっと笑う。
「本当に心配なんだろうね〜。……というか稲積は僕のことを話してるのかぁ」
　もう一度文面を見返して、
「お父さんとしてはどっちなんだろうね〜」
　学生結婚、幸せに、お世話になっている、娘に良い人はいるかどうか？
　複雑な思いが溢れ出していて、微笑ましい。
「……そうだねぇ。稲積は」
「ウォルターさん」
「！」
　顔をあげると、タイミングよく、柚春が立っていた。
「あ、ああ。稲積」
「これ。ラブレター」
「え？」
　柚春は微笑んで、
「なんて。ちょっと手紙を書いてみたの。ほら、前に書いてくれてたでしょ」
「そうか。ありがとうねぇ」
　一緒に散歩をして、いつものように過ごし、柚春と分かれた。
　手紙は帰宅してから、と約束をして。

　自宅にて。
　メイドさんがテーブルに紅茶のカップを置いた。
「紅茶です」
「ああ、ありがとう」
「ふふ。失礼します」
　柚春の手紙を読み終わって、息を吐いた。
「お父さんへの返事に迷うねぇ。とりあえず、素直な稲積は凄く魅力的だよ」
　ウォルターは、ぽつりと、呟いた。

このページにイラストを設定する