Ｇペンの付喪神、現る！～霊界漫画雑誌を廃刊から救え！｜リアクション

Ｇペンの付喪神、現る！～霊界漫画雑誌を廃刊から救え！

●無口くんはコスプレ娘に恋をする

「霊界でも漫画雑誌があるなんて何だか嬉しいわね」
　伊藤恵美は、突然目の前に現れたＧペンのジイさんに臆しもせず言った。長年同人作家兼コスプレイヤーとして活動してきた恵美にとって、Ｇペンは同志というべき存在だったからだ。
「Ｇペンは何時もお世話になってるから頼まれると嫌とは言えないわね。そういえばロットリングの付喪神はいないのかしら？」
「おりますとも！　お忙しいようで、当誌では描いていただけていないのですが」
「いらっしゃるんですね。いつか会いたいわ。……って話はさておき。何を描こうかしらね」
「恵美様は近頃、プロとして漫画連載を始めたとか。そのスピンオフでも……」
「私の漫画『こてめん！』は娘が主人公のモデルだからなー。新しく何か考えたいわね。……そうねぇ、私の大学時代の自伝的な漫画とかどうかしら？」
「それは願ってもございません！」

　私は漫画、アニメ、コスプレが大好きで推しは二次元の男性キャラという女子大学生。
　顔立ちはカワイイ系なのでモテなくはないのに、３次元の男性はちょっと苦手だったりする。
　イチョウの葉舞い散る秋。
　一回生の私は、大学祭のカラオケ大会にコスプレをして登壇していた。
「みんなー！　盛り上がってるー！？」
　コスプレをするとそのキャラになりきれるので、ステージに立つのもそう恥ずかしくなかったりする。
　歓声を受けてノリノリで歌い、キメポーズで曲を終えたその瞬間だった。
　突然観客席から声が飛んできたのだ。

「俺と付き合ってくれ！」

　え、なに？
　『付き合って』？
　私と？
　会場も声を上げた主を探して、あるいは突然の告白タイムに立ち会えたことに、ざわめいている。
　私はといえば、いきなりの告白に頭が真っ白になって思わずマイクを両手で握りしめ、

「はい！」

　って答えてしまっていた。

　告白してきたのは一年先輩の剣道部のエースの人だった。
　強面で、いかにも武道をやっていますという体つきで、恋愛のレの字も知らなそうな雰囲気。
「実は女性にこんな気持ちを抱いたのははじめてで」
　一見怖そうな彼の口から紡がれるぶっきらぼうな口調がなんだか可愛らしくて。
「私に一目ぼれ、ですか」
「……はい」
「照れます」
「……自分もです」
　異性とのお付き合いは互いにはじめてで。
　特に彼は無口であまり喋る方じゃないから、本当に私の事好きなのかなって不安になったりすることもあったけれど、剣道の試合があるときは「見に来てほしい」と必ず予定を教えてくれた。そうして試合を応援に行ったら、彼はやっぱり格好良くて。
「こすぷれ、というのは今一つ良く解らないが……好きなことを一生懸命やっている君が好きだから」
　わからなくても、私の好きな物を否定はしない、それだけで嬉しかったり。
　たまに喧嘩もしたけど、何だかんだで最後はゴールインしたのです。

「それが今の旦那様なのよね……ってこんな恋愛漫画需要あるかしら？」
「あります！」
　Ｇペンのジイさんは前のめりになって言った。
「無口くん萌えはいつの時代もございます。霊界では人間界以上に無口な者は多いですから、ウケること間違いなしですよ！」
「あら、そう？　じゃあ、思い切って書いてみちゃおうかな」
　こんなふうにして打合せを終え、原作執筆にとりかかった恵美だったが……。
「いざ書いてみると当時の事思い出してこっぱずかしいわね」
　羞恥の谷間に幾度も陥りつつも、なんとか原作をジイさんに渡す。
「あ、完成したら是非読ませてね」
「勿論でございますとも！」

　１週間後。原稿が仕上がって来た。
　ラストページは結婚式。
　主人公は、彼にお姫様抱っこされている。
　その幸せいっぱいの涙顔は、あの日の自分そのもので――。
　恵美は、胸にこみ上げてくるものがあったのだった。

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