２人でいれば無限大！｜リアクション

２人でいれば無限大！

　気がかりなことはあったけれど、いつまでも引きずるわけにもいかない。
　スタイリストに手伝ってもらいながらウエディングドレスを纏った青山絢は、意を決して鏡を見た。
　不安げな瞳をする絢とは対照的な――凛とした姿で立つ水谷真優理を映す鏡にホッとしてしまう。
「うーん、実際着てみるとフリルのボリュームが凄いわね……ちょっと私には可愛すぎない？」
「晴れやかな場だもの、自分では少しオーバーに見えるくらいでいいんじゃないかしら」
　仕事モードになっていない真優理は天真爛漫なところがある。取り繕わない姿で挙式をしたなら、格好良い物よりも可愛い物が似合うと見立てたのは絢だ。
「そう？　なら写真の前にメイクも雰囲気合わせてもらっちゃおうかな～。絢ちゃんのほうは……」
　くるりと一回りした真優理は、絢も着替え終わっていることに気付いて慌てて向き直った。
　言葉なく見つめられ、おずおずと一回りして見せる絢が物憂げに顔を上げる。そんなアンニュイな表情がたまらなく綺麗で、衣装も相まって神々しいとさえ思うのに、尊すぎて言葉が出てこない。
「………………」
「…………っ！」
　いつもなら、ちょっと暴走を諫めないといけないくらいには世辞が飛び出すところだ。
　言葉が無いことに少し不安に思った絢ではあったが、真優理に比べて見劣りするのだから致し方ないなと俯きかけたとき――よくはわからないが、真優理が感動に打ち震えていることだけは伝わった。
（何アレ、女神!?　私、召されてないよね、えっ、絢ちゃんと両思いになった天罰？　待ってこれ現実!?）
　目を見開いたかと思えば天を仰ぎ、かと思えばかぶりを振って再び凝視する。本当に、これさえ無ければ誰もが美人と称賛しただろうけど。
「真優理さん」
「いやもう本当に！　ひいき目じゃなくてマジだから言っていいかな!?」
　落ち着いて貰おうと思って呼んだはずの名前は、何かを催促しているように聞こえたのか、真優理はしっかりと絢の手を掴んで荒い息を隠そうともしない。
「……手短に」
「天空に輝く星座の星々ですら絢ちゃんの美しさには敵うまいっ！」
　ひと息で言い切った真優理は、ぽかんとする絢にオロオロと縋り付く。
「やっぱりボキャ貧だよね、絢ちゃんを褒め称える言葉はもっとあるよね」
「そう、かしら……？」
　これでも、いつもよりテンションを抑えて相応しい言葉を熟考したのだけれど。やはり可愛く美しく聡明で儚げな愛しい従姉妹殿に相応しい言葉を、もっと学ぶべきだろうか。
（まあ……いつものキャッキャした勢いでは、ちょっと恥ずかしいしね）
　従姉妹であるというのは、生涯この先も変わらぬ事実で。
　愛してしまったというのも、お互いに確認してしまった偽りなき想いで。
　確かな温かさを胸に息づかせ、その熱を感じられる幸いは……世の全てに共有できないとしても。
（絢ちゃんは新進気鋭の女優。これからが大事な時期だもの）
　それを差し引いても禁断の関係だ、秘めなければいけない恋だと自覚できないほど浮かれはしない。
　ときにオープンにできないことが苦しめることになっても、その分ちゃんと愛していると伝えられたなら。
「ほら、次は何着る？　私は目星つけてるの。まあ絢ちゃんには何でも似合うだろうけど」
　人前では従姉妹でいるしかない。それは、わかってくれるだろう。
　どこかそんな思いが、潜んでいなかったわけじゃない。
　秘密の恋が、よりスパイスとなって燃え上がるだろうと、思わなかったわけじゃない。
「……不思議ね。真優理さんと着ている衣装はただのドレスではなくて……お互いの愛を誓い合う聖なる衣装だなんて」
　間違いなく絢が愛おしさを含んで微笑んでくれるから、幸せに目が眩んでしまっていたのだ。

　――愛する人とともに、ずっとこのまま。穏やかな時間を――

　同じ願いを持つはずの絢が、心の片隅に不安を抱えていることを……真優理はまだ、知らない。

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