２人でいれば無限大！｜リアクション

２人でいれば無限大！

　相手とのペースに合わせる競技は、皮肉にも城山水樹とヒュー・ヒューバートの息が合うことを周囲に知らしめた。
　内情を知らない者から見れば、何のトラブルも抱えていない幸せそうな美男美女カップル。ロッククライミングを好成績でクリアした２人を賞賛する歓声も、どこか「当然だよね」といったニュアンスが滲んでいて、その当人たちと異なる温度差がヒューにはとても滑稽に思えた。
（他人の恋路なんて、そんなものか）
　親身に相談へ心を砕いてくれる友人ならいざ知らず、通りすがりの人に知ってほしいとも思わないから、気にも留めず次の競技へ向かうことにする。
　いくつかの質問カードを書いて、風船に溢れかえるステージに出る。カラフルで可愛らしい空間にはしゃぐような２人でもなく、キャッキャと仲睦まじい他のグループを見て、場違いだろうかとさえ思った。
　そうこうしているうちに、開始の合図が響く。同時に素早く風船を拾った水樹が抱きついてきて、全力で競技に挑むところがらしいなと思って……どこか無心なところが『恋人としての義務』のようにも見えて。簡単に割れてくれない風船が２人の間を飛び出しても、抱き合ってしまえることに安堵さえした。
　たったそれだけ。それでも大きな隔たりが出来てからは特に慎重になってしまっていた距離に、変わらず彼女が飛び込んできてくれる。まるで学生の恋のように、少し触れあうのも恥ずかしがっていたときのように頬を赤らめて、風船に意識を向けようとする必死な水樹がここにいるのに。
（理由がないと、まだ）
　抱き留めることすら叶わないのだと、気付いてしまった。その不安を払拭したくて、ヒューは少し力を込めて抱き返す。風船も、水樹も、何処へも行かせまいとするように。
　――パンッ！
　油断していた所の破裂音に、身体を硬直させてしまう。足元にカードがふわりと落ちて、ようやく風船が割れたのだと気付いた。
　どちらからともなく腕を解き、水樹がカードを拾う。その瞬間、少し顔を曇らせた水樹は、カードをしっかりとヒューに見せて答えた。
「精一杯、謝る」
　書いてある質問は『彼氏（彼女）に謝るときはどうしますか？』とある。今まさに、水樹の置かれている状況では深く古傷を抉ったことだろう。
「何度でも、伝わるまで……謝る！」
　胸を詰まらせたような顔に不安になるけれど、今回のイベントの趣旨ではそれを受けてどうするか、という返答をするものでは無い。そうでなかったことが……ほんの少し、ヒューに小さな息を吐かせた。
「僕も、言葉が足りなくならないように謝るかな。すれ違わないように」
　お互いの謝り方が答えられたところで、この質問はクリアだ。水樹は少しだけ嬉しそうに微笑んで、カードを握りしめている。
　次の風船をヒューが拾い、また抱き合う。
（……悔しい、な）
　こうして理由を探して、優しく抱きしめることしかできないなんて。
　実際は何も言葉をかけてやれなくて、無力感に苛まれてしまうけれど。２人ならきっと――そう思えるのも、本心だった。

　ゆっくりと休憩を挟んだところで、次の競技にも参加してみようと八神修は風船広場へ七夜あおいを誘ってみた。意外と密着する競技ではあるけれど、あおいも焦らなければ割れるだろうと思っているようで、質問カードを楽しげに書いている。
（あおいが答えに困らない物がいいよな）
　好きな動物、１番嬉しかったこと。簡潔に答えやすく、それでいて知りたいことを修はどんどんカードに書き込んだ。
　気になることは、それこそ辞典でもできてしまうのではないかというくらいある。些細なこと、踏み込んだこと、その中から今聞いても差し支えないことは――
「修君、ちょっとストップ！」
　気付けば、カード入れが空っぽだ。スタッフも、「ご協力ありがとうございます」なんて言っているけど苦笑いを浮かべている。
「ごめん。あおいのこととなると、もっと知りたくて」