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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
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秋桜への宣誓
別に、冷やかしていたのではない。
ただ気の向くまま散歩をしていた倉前 七瀬は、ふらりと丘の土産物屋に立ち寄った。それだけだ。
いや、明確に何かを買うつもりでの入店ではない。そういう意味では冷やかしと言われても致し方ないが、土産物屋への入店など、そんな物ではなかろうか。
どんな物が売っているのか、今の一押しは。表に並んでいたクッキーの包装紙が綺麗な花畑で、その青空部分にしっかり書かれた『恋人たちの丘へいってきました』という文字を見付けた時には、次の文字を探していた。
『猫神様のお墨付き』とか『恋人宣誓書あります』とか。書いてある文言は七瀬にとって魅力的ではないのだけれど、次々と飛び交うように溢れる文字に魅入ってしまっていたのだ。
おかげで、興味津々に眺めていたのを購入に迷っていると思われ、店員の話術に訂正をいれるほどの口達者でもなかった七瀬は予定外の買い物をするはめになってしまって、途方に暮れている。
（どうしましょうか、これ）
A5サイズほどのペーパーフレーム。立て掛けも壁掛けもできて、まあ便利……と言えれば良かったのだが、生憎とフレームの中身は独り身の七瀬には扱いに困るとしか言えない。
（僕、提出する予定も相手もおらんのですが……）
恋人宣誓書。お互いの名前や記念日を記入し、御利益あるらしい猫神様と天女を模したスタンプを捺印してもらえる記念品だ。特別な効力を持たなくても、恋人たちの新たな思い出になるだろうし、夫婦が改めて誓うのにもいいだろう。
しかし、繰り返しになるが七瀬は独り身だ。七瀬は。けれど、もしかしたら。
（……一緒に提出する相手がおったりするとでしょうか）
ふと顔が浮かんだのは、なぜかウォルター・Bだった。
むぅ、とフレームの中身を眺めてみても、これを書きたいかと言われたら違うと思う。
この用紙を埋めるほどの思い出も、伝えたい言葉もあるけれど、やっぱり『恋人』宣誓したいのではない。
（すいとーですけど）
他人から見たら、そういう『好き』なのかもしれない。それはその人の感性によるものだから否定はしない。
けれど七瀬自身からすれば、そういう『好き』とは違うのだ。
店でもどんな項目があるのかと眺めたけれど、これは本当に恋人でしか書けない物だろうか。記念日だって、２人で叶えたい夢だって、例えば親友とか。
（ううん……？）
そもそも、名前のある関係がしっくりこないのかもしれない。自分の中で定義が明確なほど凝り固まっているわけではないのに、そんな気がする。
コーンと寂しい鐘の音が響き、思わずそちらに顔を向ける。確か、提出先は猫恋の鐘の近くだと言っていた。
（提出して、鐘を鳴らして）
笑い合って誰かと歩くウォルターを、見付けてしまったらどうしよう。
恋人になりたいわけでもないのに、どうしてそれが、こんなにモヤモヤするのだろう。
「曲がっちゃうよぉ？」
聞こえてきた声に、七瀬は弾かれるように前を見た。
「まさか、コスモス交換に誘われるなんてねぇ」
ウォルターは誰かと連れ立ってる様子は無かった。待ち合わせ途中かも聞いていない。ただ、時間があればと声をかけた。
（僕だって散歩しとるだけですし）
考えてはダメだ、気にしてはいけない。そう、思っていたのに。
「倉前は待ち合わせだったんじゃないの？」
「え……？」
「あんなに必死に握りしめて、緊張でもしてるのかと思ってさぁ」
茶化すように笑うウォルターは、気にも留めていないのだろうか。こんなデートスポットで、恋人宣誓書なんて真剣に見つめていたことを、何も。
「ウォルターさん、は……」
「野暮ってものでしょ、聞かないでよ。倉前だって――」
「何色にするか決めましたかっ！」
会えて、嬉しいのに。場所のせいか、嫌な考えが振り払えないせいか、心の靄が消えない。
コスモスのプレゼントだって、お土産屋に足を運ぶ前から一通り眺めて考えていた。告げたい言葉は決めてある、わかってほしいと七瀬が手を伸ばしたのは、チョコレート色のコスモスだ。
「僕からは、この色がいいです」
白やピンクと明るい色とは打って変わって、暗い色のそれは前向きな言葉を持ち合わせていないように思う。ちらりと花畑へ視線をやったウォルターも、別れや切ない恋心を表す花言葉の多さに驚きを隠せない。
（どうか、わかっていてほしい）
込めたのは『終わり』ではなくて『移り変わらぬ思い』の、ただひとつ。
受け取ったウォルターは暫し考え、そのまま言葉なくコスモス畑を歩き出す。赤、白、そして――。
「まったく……日本語だと意味が多すぎて困っちゃうねぇ」
コスモスには英語だと、何色であっても平和を願う言葉が込められている。けれどウォルターは、七瀬のためにオレンジ色を差し出した。
自然体であれと、笑いかけるように。
ただ気の向くまま散歩をしていた倉前 七瀬は、ふらりと丘の土産物屋に立ち寄った。それだけだ。
いや、明確に何かを買うつもりでの入店ではない。そういう意味では冷やかしと言われても致し方ないが、土産物屋への入店など、そんな物ではなかろうか。
どんな物が売っているのか、今の一押しは。表に並んでいたクッキーの包装紙が綺麗な花畑で、その青空部分にしっかり書かれた『恋人たちの丘へいってきました』という文字を見付けた時には、次の文字を探していた。
『猫神様のお墨付き』とか『恋人宣誓書あります』とか。書いてある文言は七瀬にとって魅力的ではないのだけれど、次々と飛び交うように溢れる文字に魅入ってしまっていたのだ。
おかげで、興味津々に眺めていたのを購入に迷っていると思われ、店員の話術に訂正をいれるほどの口達者でもなかった七瀬は予定外の買い物をするはめになってしまって、途方に暮れている。
（どうしましょうか、これ）
A5サイズほどのペーパーフレーム。立て掛けも壁掛けもできて、まあ便利……と言えれば良かったのだが、生憎とフレームの中身は独り身の七瀬には扱いに困るとしか言えない。
（僕、提出する予定も相手もおらんのですが……）
恋人宣誓書。お互いの名前や記念日を記入し、御利益あるらしい猫神様と天女を模したスタンプを捺印してもらえる記念品だ。特別な効力を持たなくても、恋人たちの新たな思い出になるだろうし、夫婦が改めて誓うのにもいいだろう。
しかし、繰り返しになるが七瀬は独り身だ。七瀬は。けれど、もしかしたら。
（……一緒に提出する相手がおったりするとでしょうか）
ふと顔が浮かんだのは、なぜかウォルター・Bだった。
むぅ、とフレームの中身を眺めてみても、これを書きたいかと言われたら違うと思う。
この用紙を埋めるほどの思い出も、伝えたい言葉もあるけれど、やっぱり『恋人』宣誓したいのではない。
（すいとーですけど）
他人から見たら、そういう『好き』なのかもしれない。それはその人の感性によるものだから否定はしない。
けれど七瀬自身からすれば、そういう『好き』とは違うのだ。
店でもどんな項目があるのかと眺めたけれど、これは本当に恋人でしか書けない物だろうか。記念日だって、２人で叶えたい夢だって、例えば親友とか。
（ううん……？）
そもそも、名前のある関係がしっくりこないのかもしれない。自分の中で定義が明確なほど凝り固まっているわけではないのに、そんな気がする。
コーンと寂しい鐘の音が響き、思わずそちらに顔を向ける。確か、提出先は猫恋の鐘の近くだと言っていた。
（提出して、鐘を鳴らして）
笑い合って誰かと歩くウォルターを、見付けてしまったらどうしよう。
恋人になりたいわけでもないのに、どうしてそれが、こんなにモヤモヤするのだろう。
「曲がっちゃうよぉ？」
聞こえてきた声に、七瀬は弾かれるように前を見た。
「まさか、コスモス交換に誘われるなんてねぇ」
ウォルターは誰かと連れ立ってる様子は無かった。待ち合わせ途中かも聞いていない。ただ、時間があればと声をかけた。
（僕だって散歩しとるだけですし）
考えてはダメだ、気にしてはいけない。そう、思っていたのに。
「倉前は待ち合わせだったんじゃないの？」
「え……？」
「あんなに必死に握りしめて、緊張でもしてるのかと思ってさぁ」
茶化すように笑うウォルターは、気にも留めていないのだろうか。こんなデートスポットで、恋人宣誓書なんて真剣に見つめていたことを、何も。
「ウォルターさん、は……」
「野暮ってものでしょ、聞かないでよ。倉前だって――」
「何色にするか決めましたかっ！」
会えて、嬉しいのに。場所のせいか、嫌な考えが振り払えないせいか、心の靄が消えない。
コスモスのプレゼントだって、お土産屋に足を運ぶ前から一通り眺めて考えていた。告げたい言葉は決めてある、わかってほしいと七瀬が手を伸ばしたのは、チョコレート色のコスモスだ。
白やピンクと明るい色とは打って変わって、暗い色のそれは前向きな言葉を持ち合わせていないように思う。ちらりと花畑へ視線をやったウォルターも、別れや切ない恋心を表す花言葉の多さに驚きを隠せない。
（どうか、わかっていてほしい）
込めたのは『終わり』ではなくて『移り変わらぬ思い』の、ただひとつ。
受け取ったウォルターは暫し考え、そのまま言葉なくコスモス畑を歩き出す。赤、白、そして――。
「まったく……日本語だと意味が多すぎて困っちゃうねぇ」
コスモスには英語だと、何色であっても平和を願う言葉が込められている。けれどウォルターは、七瀬のためにオレンジ色を差し出した。
自然体であれと、笑いかけるように。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2023年03月14日
- 参加申し込みの期限
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- 2023年03月21日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2023年03月21日 11時00分
