waに染まる猪口齢糖と伝統技術の饗宴 in サロネコ1371｜リアクション

waに染まる猪口齢糖と伝統技術の饗宴 in サロネコ1371

＊貴方と二人で、甘い時間を

「その着物、似合いますね……」
「先生こそ……。白衣じゃない姿も、素敵です」

　御巫時子は五十嵐尚輝にそういわれ、少し頬を赤くして言葉を返した。
　今日は、憧れの相手である尚輝に誘われサロンにやってきた。時子はよれてしまった彼のネクタイを正しながら優しく「尚輝先生、今日はお誘いいただきありがとうございます」と礼を述べる。
　よく見れば、クリスマスに送ったネクタイピンを付けており、時子の耳がほんのり赤くなる。
「せっかくいただきましたし……」
　尚輝は、少し照れくさそうにそう言った。

　煌びやかな琴の音色を聞きながら会場を巡れば、様々なチョコレートが二人を出迎える。立食式という事で自由に食べる事ができる物と、展示のみの物とあるらしい。
「これは……、面白い、ですね。チョコレートの大福、だそうです」
「これはこれで、食感が素敵ですね」
　チョコレートを練りこんだ求肥でクリームを包んだ大福には、イチゴ入りの物とラズベリー入りがあり、生クリームに抹茶が入れられた豆入りの物もあった。
「和素材とチョコも意外と合うんですね。普段食べられないと味の想像がつきません」
「そう、ですね……」
　次に二人が選んだのは、炒った大豆が入ったチョコレート菓子。これは香ばしく、ちょっとしたお茶請けに合いそうだ、と話が弾む。
　同じものを食べ感想を言い合う事が楽しくて、自然と時子は尚輝との距離が近くなってしまい、頬を朱に染めた。

「これは、チョコレートで再現した……組木細工菓子だそうです」
「細工が繊細だと食べるより見てたくなりますね……」
　お菓子を取りに行く途中で見つけた、伝統工芸品の再現コーナー。その中で一番目を引いたのが、これだった。
　近くには、組木細工の模様を模したチョコレートクッキー。試しに食べてみると、ほんのりビターで食べやすい。
「どれが、気に入りましたか……？」
「どれもこれも美味しいから、迷いますね……」
　尚輝の問いに穏やかに答えた時子は、そっと「先生は何か気に入ったものがありましたか？」と問いかけてみる。彼自身もまた、まだ迷っているようで、彼女と似たことを言っていた。
　そんなことを話していると、窓から野点コーナーが見えた。よく見れば、あおいと彰尋の姿を見つけた。
「先生、野点にも行ってみませんか？　次の回なら参加できそうですよ」
　時子の誘いにしばし考えた尚輝は、こくりと頷いた。

　しばし待った後、二人は外に出る。野点会場は、ほんのり日が傾いた事もあり少し寒かったが、寄り添えばそこまで寒くはない。
「茶道は……、あまり、やったことがないですね」
「大丈夫ですよ。かしこまらず楽しめますから。緊張せずにリラックスして下さいね」
　少し緊張気味な尚輝に、時子が優しく声をかける。彼は参加者のリラックスした様子を見、少しだけ緊張を解く。
　出された柚子のオランジェットと甘辛いタレが入ったチョコレートマシュマロも美味しい。尚輝は「ユズ等柑橘類の皮の成分は……」と研究した事を思い出し、時子にも「これは美味しい、ですよ」と進めてくれた。
　ふと景色を見れば、青空に紅葉が映えていた。思わず感嘆の息を漏らす二人。時子はそっと尚輝の手に己の手を重ね、「綺麗ですね」「本当に……」と二人で笑い合う。
　抹茶のほろ苦さとチョコレートが意外にもマッチし、時子も尚輝もほっこりとした心地となる。
（先生、楽しんでいただけてますか？）
　ちらりと尚輝を見れば、彼は優しい顔で抹茶とお菓子を楽しんでいた。そのほんのりとした笑みに、時子は安堵した。
「帰りに、何か買って帰りましょうか」
「そう、ですね。……気軽に食べられる物に、しましょうか」
　時子と尚輝は、そんなことを言いながら頷き合った。

このページにイラストを設定する