真心伝える基本のチョコレート作り体験 in サロネコ1371｜リアクション

真心伝える基本のチョコレート作り体験 in サロネコ1371

☆植物園デート

　森篠琳子が高校を卒業し、地元の寝子島信用金庫（ねこしん）に就職して半年以上が過ぎた。
　同じ職場の同期で恋人の秋沢覚と、今日は植物園へデートにやってきた。
「寝子島のあちこちで今年からまた新しい祭りが始まったようで。この島の人間、本当にお祭りごとが好きなのよね」
「そうみたいやな。お祭りは嫌いか？」
　楽しそうな覚に、ちょっと不満げに琳子は言う。
「そうじゃないけど……この前はハロウィンだったのに、それからそんなに日にちが過ぎてないのにもうこれだもの」
「ええやん、話のタネに困らんし。俺はお祭り好きやで」
（別にお祭りが嫌いなわけじゃないけど……）
　営業で忙しい覚とは、なかなかデートできるタイミングが合わない。
　そんな時に楽しそうなお祭りがあって、一緒に行けないとなるとついモヤモヤしてしまうのだ。
「今日はデートやし、俺にとってはお祭りみたいなもんや」
　そう言われると、素直に楽しむべきかな……とも思う。
「お、そこになんか書いてあるで」
　覚の指さす方を見ると、『チョコレート作り体験』とあった。
「植物園でそんなイベントをやってるのね」
「手作りチョコ、ええなあ」
　と言う覚を見て、
「入りましょうか？」
　琳子の口から自然と言葉が零れ出ていた。
　琳子としては、料理は得意だし当然自分が作るのだろうと想定していたのだが。
「よし、お祭りや！　作るで！」
　覚は迷わず基本から学べるコースへ向かっていく。
　慌てて後を追う琳子。

「覚さん、料理とか好きなの？」
「普段はやらんけど、友達が来た時に簡単なモン作ったりするで。たこ焼きとかお好み焼きとか」
「粉ものばかりね……」
　入り口の説明を読んでみる。
「……カカオ豆をすりこぎで砕く……けっこう腕力がいるわね」
　すぐに、自分はそんなに腕力がないことに気づいた。
「お、他にもコースはあるみたいやで」
『体力に自信はないけど、手作りチョコには挑戦したい……叶えましょう！』
　フォンダンショコラのコースがうってつけのようだ。
「そんじゃ、せっかくやから別々のチョコ作って食べ比べてみるか」
「そうね」
　一緒に作らないのはちょっと寂しかったが、琳子は覚と別のコースに参加することにした。
　
　係員の説明を受ける。
（たしかに工程はほぼ混ぜるだけだけど……）
「オーブンの設定温度だけにはご注意を。爆発してしまうこともあるとか……？」
「えっ？」
「気をつければ大丈夫ですよー」
（そう言われても……）
　失敗したら爆発するなんて言われたら、さすがにちょっと不安になる。
　自分はちゃんとしても、他の参加者が爆発させてしまえば巻き込まれかねない。
（係員さん、ちゃんと見てくれるわよね？）
　プロの仕事を信じるしかない。

　とりあえずオーブンに入れるまでは心配ない、と気持ちを切り替えることにした。
　まず薄力粉、粉糖をふるい、次にチョコレートとバターを湯せんで溶かして混ぜる。
　家事全般が得意な琳子には苦にならない作業だ。
　それから卵を溶きほぐし、薄力粉、粉糖を少しずつ加えて混ぜる。
　チョコレート生地を卵に加えて混ぜ、型に入れていよいよオーブンへ。
　もちろん自分の番の時は、慎重に温度と時間を確認した。
　幸い琳子はもちろん、他の人が失敗することもなく爆発はまぬがれた。

　終了して教室を出ると、覚が待っていた。
「覚さん、ちゃんとできた？」
「バッチリやで」
　二人は互いに作ったものを交換した。
　覚のチョコはハート型で、まあまあの出来だった。
「美味しい！」
　満足した琳子だが、覚は驚いた顔をしている。
「琳子ちゃん、こら何や？」
「えっ？　何かまずかった？」
　覚の反応に、琳子は心配になったが。
「プロの出来や！　どっかで買おてきたんと違う？」
「そんなことないわよ」
　オーバーだと思ったが、覚は本当に喜んでくれたようで、ほっとする琳子だった。

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