真心伝える基本のチョコレート作り体験 in サロネコ1371｜リアクション

真心伝える基本のチョコレート作り体験 in サロネコ1371

☆恋人同士のように？

　大学生の京極花音は、バイト先の常連客である女の子暁月静と一緒に、チョコレート作り体験をすることになった。
　小柄で清楚で可愛らしい静に盛大な好意を寄せている花音としては願ったり叶ったりだが、彼女の方はかなり天然でそのことに気づいていないらしい。
「良かったぁ！　……１人じゃ不安だったんです」
　つまり、これから花音は彼女と二人きり（係員や他の客もいるのだが、花音には静しか目に入っていない）で一緒にチョコを作るのだ。
（まるで恋人同士のデートみたいじゃねえか……緊張してきた！）
「２名様ですね」　
　係員にそう聞かれて、何と答えようかと静の顔を見る。
「はい」　
　彼女は微笑んで頷いてくれた。
（恋人同士だと思われてる……！）
　　チョコレート作りの説明が始まった。
（失敗して彼女をがっかりさせちゃいけねえ）
　ドキドキを抑えて、係員の説明に極力集中する。
　が、つい彼女に目がいってしまう。
（いかん、可愛すぎて見とれそうになる……）

「いい香りっスね……」
　焙煎されたカカオの香りのことだが、あわよくば一緒に彼女の香りが漂ってこないかと鼻をひくつかせてしまう。
「そうですね。こんなふうにすると殻がするっと剥けるんですね」
　豆を挟む静の指先にもドキドキする。
（あの綺麗な指に挟まれてみたい……いや、何考えてんだ俺）
　見とれているだけではいけない、と気を取り直す。
　殻は取り除かれ、いよいよカカオ豆のすり潰しだ。
（カカオ豆をすり潰す工程は、やはり底なしの体力を持つ俺の出番だろう）
　花音は静に声をかけた。
「俺が豆を砕くんで、練り上げる工程をお願いしたいッス……」
「え……でも大変な作業をお任せしちゃって良いんですか？」
　申し訳なさそうに静は花音を見つめる。
「こ、こういう体力勝負な作業は男の仕事なんで……」
「わあっ、ありがとうございます！」
（頼りにされてる……良かった）
　こんな何気ない会話でも、二人で作業してるんだという感じがして舞い上がってしまう。
　周囲では機械に頼っているカップルもいたが、花音はすりこぎで何なく豆をすり潰した。
「すごい！　やっぱり男の人は力がありますね」
　褒められてにやけそうになる表情を、なんとか引き締める。
「このくらいなんてことないッスよ」
「助かりました。次の砂糖を混ぜる作業は私がやりますね」
　そう言って砂糖を入れ始めた彼女だが。
「あっ、こぼれちゃった……」
　混ぜるだけなのに砂糖はボウルから飛び出し、チョコもへらから垂れ落ちて。
　いつしか作業台は壊滅的にぐちゃぐちゃと化していた。
（……もしかして料理は苦手なんだろうか）
　良いことではないのだが、花音は嬉しかった。
（また一つ彼女のことが知れて貴重な状況だ）
　ちょっとドジなところがまた可愛い、と思えてしまう。
　一生懸命チョコの形を整えている（でも歪になってしまう）彼女の姿がとても愛おしかった。
「あんまりうまくできなかったんですけど、良かったらどうぞ」
「いや、とても可愛らしいと思います……いいんスか？」
（ちゃっかり手作りチョコをゲットしちまった！）

　彼女と別れ帰る途中、花音はずっとウキウキしていた。
　嬉しさのあまり、家に着くなり早速一つ口の中へ放り込む。
　が、期待していた甘い味が口の中に広がることはなく。
「……しょっぱい？」
　自分の味覚がおかしくなってしまったのだろうか。いや……
（砂糖と塩を間違える人間なんて今どきいるわけが……まさか）
　しょっぱいチョコを、無理して花音は飲み込んだ。
　彼女が一生懸命作ってくれた事実に、変わりはないから。