【お三夜】猫と人とあやかしと、三つの世界が交わる夜｜リアクション

【お三夜】猫と人とあやかしと、三つの世界が交わる夜

●SideB：霊界：終結

　無数の鳥居と、こんもりとした黒い森が、もうもうと立ち上る血煙に覆われている。
　血を使い果たしたヴィーゼが、枯葉のように空からひらひら落ちてくるのが見える。
　想花を助けたサキリは、再度、＜斬空赤刃＞を発動して、瞬間移動でヴィーゼを抱えて戻ってきた。
　ヴィーゼは真っ青な顔をしているが意識はあった。
「大丈夫、ただの血の使いすぎ……そのうち回復するから心配しないで……それより皆、無事？」
　阿呂江がひいふうみい、と数えて答える。
「大丈夫じゃ。皆、おる」
　それを聞いてヴィーゼはほっとして意識を手放した。
「彼女は俺が背負っていくよ」
　歩が申し出る。
　同じあやかし同士だし、歩の脚力をもってすればヴィーゼが働く霊界のカフェまで送り届けるのはわけない。
「それにしても、……」
　歩は滴がいた森の方を見る。
「滴くんにとっての元気や幸せ、いいことって、なんだろうな。彼女に幸せに生きて欲しい、って願っちゃうね」
「そうだな」
　修も歩と同じ方を見て滴のことを思った。風に乗ってこの声が届いてほしいと。
「黒白は戻れる。戻るのは、いつだって遅くない。覚えておいてくれ――」

◇

　銀朱駅に戻ってくると、お三夜さまといっしょに先に発ったシオとハルキ、両替屋ポンが待っていた。
「おおお、みなさんご無事で！　盛大な血煙が上がったので、心配しておりましたぁ」
　ポンが、よよよ、と泣き崩れる。
　ハルキはポンの肩を叩いて慰め、それから戻って来た皆に報告する。
「桜井くんと夏夜さん、瑠樹くんにはお三夜さまを連れて、先に戻ってもらったよ」
「シオさんとハルキさんは待っててくれたんですか？」
　と蒼留人が訊いた。
「俺たちは、これを作っていたんだ」
　そういってハルキは、鳥居の道の入り口のかたわらにしゃがみ込んでいるシオを見遣る。
「ええ、ほら、できましたよ」
　シオがしゃがみ込んでいたそこには、石を組んで作った、小さな祠が出来上がっていた。
「何も出来なくても、繰り返さないため。忘れない、伝え続けることで、先に備えたいですから」
　シオは両手を合わせる。
「蜘蛛さん、もう悪さしちゃだめですよ」
「からあげをお供えするからね」
　ハルキも祠を拝む。
　よくわからないが、なんとなくつられて、皆も一緒に祠を拝んだ。
（もうこんなことはありませんように）
（滴さんが幸せになれますように）
（帰ったら美味しいものが食べられますように）
　……。

「あー、疲れた！」
　蒼留人が大きく伸びをする。
「寝子島に帰ろうぜ！　腹も減ったし屋台でいろいろ食べるとするかな」
「それがよいでしょう。それではみなさん、さようなら」
　両替屋ポンに見送られ、一同は来た時と同じ傾いた鳥居をくぐる。
　全員が潜り終わった後、鳥居は役目を終えたのか、すうっと消えてなくなった。

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