【お三夜】猫と人とあやかしと、三つの世界が交わる夜｜リアクション

【お三夜】猫と人とあやかしと、三つの世界が交わる夜

●SideB：霊界：母蜘蛛＜３＞

　母蜘蛛が地に落ちる直前。
「お三夜さま！」
　猛烈に揺れる蜘蛛の巣を伝って、三毛猫がお三夜様が入った繭に飛びついた。
　道哉である。猫のふりなら母蜘蛛が油断するかもしれないという可能性に掛け、道哉は猫の姿で死角から繭に近づいていたのだ。
　道哉は繭を抱いたまま転がり、自分の体をクッション代わりにしてお三夜さま入りの繭を守った。
　夏夜と萌々子も寸でのところで逃れ、無事に地に足をつけることができた。

　蒼留人が木刀を振りかぶって、地に落ちた母蜘蛛に飛び掛かる。
　しかし母蜘蛛もそう簡単にやられはしない。
　八本の脚を刃のように振るって、蒼留人の木刀を弾き飛ばしてしまう。
「くっっ！」
　蒼留人も別の脚に勢いよく突き飛ばされた。
　だが、転がった蒼留人はにやりと笑う。
「これでいい！」
　蒼留人は囮。
　彼の背後では、無数の鳥居が宙に浮かび上がっている。
　修の仕業だ！

「鳥居道の奥なら周囲は鳥居だらけ。基部を『分解』し進化能力で持ち上げ、全力で叩きつける！」

　修のコントロール下に入った鳥居は、Ｕ字釘のように地に突き刺さり、蜘蛛の脚を押さえた！
「まず足！　然る後に体！」
　ズドンズドンと、鳥居が蜘蛛の体を標本化する如く地面に縫い留めていく。
　次々と。
　何本も何本も！
「逃れられると思うなよ。鳥居は幾らでもある。すなわち、俺の武器は幾らでもあるということだ！」
　幾本もの鳥居に穿たれた母蜘蛛は、徐々に身動きが取れなくなる。

「行くよ、ダマスカスブレード！」

　ここがチャンスとサキリはダマスカスブレードを投擲した。
　刀身に薄っすら浮かんだ独特な波模様が特徴のダマスカスブレード――愛刀である彼女は付喪神であり、あやかし特有の能力を使うことができる。
　サキリの手から離れた時は「ダンス･マカブル」で自身を念動力操作することができるのだ。
　まるでダンスを踊るように、縦横無尽に母蜘蛛を切り裂くダマスカスブレード。
「とどめを！」
　木刀を失った蒼留人が叫ぶ。

「誰か俺を使ってくれ！」

　蒼留人はろっこん＜絆の刀＞を発動し、切れ味よく美しい日本刀に変身した。
　蒼留人の日本刀はダマスカスブレードのように自分で動くことはできないが、ここには、刃物の達人、サキリがいた。
「響、使わせてもらおう」
　サキリは、ダマスカスブレードを投げて空になった方の手で、蒼留人／日本刀を握った。
　もともと持っていたマチェットと日本刀の二刀流だ！
「弱点は眉間だよ！」
　人の姿に変じた道哉は自身の能力＜ほころびの光＞で母蜘蛛の弱点を見て伝えた。
「これでとどめだ！」
　サキリは＜斬空赤刃＞で母蜘蛛の真上に転移すると、赤光化させたマチェットと日本刀の斬撃を容赦なく、母蜘蛛の八つある目のうち大きな二つの間の眉間に突き立てた！

　ヒギャアアアアアアアア！！！

　絶叫のような音が、大きな牙の生えた口の隙間から響き渡る。
　サキリはまっすぐに、二本の刃を脳天の奥まで突き刺すと、そのまま両手を左右に広げ、母蜘蛛の脳天を引き裂く。
　母蜘蛛の頭部からぶしゃああと体液の飛沫が弾け出る。
　その飛沫が体に掛かる前に、サキリは＜斬空赤刃＞で瞬間移動し、梢の上に退避する。
　サキリのもとにダマスカスブレードが戻って来た。
　サキリは日本刀をそっと地上に戻してやった。日本刀は蒼留人に戻った。
「やったか？」
　母蜘蛛は悶えている。
　しかし鳥居が八本の脚をくぎ付けにしていて、出来ることはなにもない。
　ただただ叫ぶことしかできない。
　悶えて悶えて。
　母蜘蛛は、青黒く光る闇の飛沫となって、弾け飛んだ。
　それが、母蜘蛛の最期であった。