音物語｜リアクション

音物語

◆ライブハウス

　11月のある週末。
　三折部朝衣は婚約者の住沢遥人とともに寝子電で本州に向かっていた。

　話は少し遡って先月のこと。
　朝衣が応募していた抽選でライブのペアチケットが当たった。２人がよく聴くオーストリアのロックバンドだ。

（このバンド、数年に一度しか来日しないのよね）

　そのためチケットの倍率が高く、なかなか取ることができなかった。高校生の時に友達とこのバンドのライブに行ったけれど、その時も予約が大変だった記憶がある。だから今回の当選は本当に嬉しかった。
　しかし当選を喜んでばかりもいられない。久しぶりのライブで、確認することが山積みだった。当日着ていく服をどうするか、持ち物はどこまで必要か。ライブハウスの近辺はここ最近行ってないので目印になる建物が変わっていないか。そういったことを隙間時間で調べていった。
　そして準備を終えたかばんを持って、今に至る。

　結局服装は２人ともお揃いでバンドロゴ入りのTシャツを着ていくことにした。とりとめのないことを話しているうちに本州に到着。そこから電車で横浜へ。
　駅を出ると２人と同じように、ライブへ行く人の姿がちらほら見える。Tシャツやバッグなどのデザインで、見る人が見ればすぐに分かった。

「あたしたちと同じね」
「そうだね」

　知らない人たちだけれども、なんとなく仲間意識を感じた。その後を追うように朝衣たちもライブハウスへ向かう。ライブハウスには準備を行うスタッフたちと期待感を胸に抱えた聴衆が集っていた。
　久しぶりにライブで聴くのと、この独特の空気感に朝衣は妙に緊張してきた。思わず遥人の腕に抱きつくと、遥人は穏やかに手を添えた。
　いざ定番の一曲からライブが始まると、聴衆は一気に沸いた。往年の名曲から風を感じる新曲まで、ライブは盛り上がりを見せた。
　もちろん朝衣たちもその勢いに乗って燃え上がり、最後まで満喫した。

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