音物語｜リアクション

音物語

◆夢中になれるもの

　倉前七瀬は本屋も併設しているCDショップにふらりとやってきた。今日は本ではなくCDを物色していると、見知った人物――ウォルター・Bを見かけた。

（そういえば、ウォルターさんって結構音楽好きなんでしたっけ）

　以前別の店で見かけたときはアナログレコードを購入していた。ずっと探していたアルバムを見つけたと興奮気味に話していたのを覚えている。

「ウォルターさん、奇遇ですねぇ」
「ん？」

　ウォルターは振り返り、七瀬であることに気づくと表情を緩めた。

「倉前か。君もCDを見に来たのかい？」
「ええ」

　七瀬は目の前のCDを１つ手に取った。

「音楽より歌詞カードのほうが気になってしまうっていうのはありますが……。なので、ミュージカル音楽とか日本語ラップが好きです」

　彼は活字中毒なので、言葉に強く惹かれるのだろう。今手に取っているのもそういうジャンルのものだ。

「なるほどねぇ」
「意外でしょうか？」

　ウォルターは首を横に振った。
　彼も歌詞カードに目を通すだろうし、それを熱心に見る人がいても不思議ではない。

「あ、もちろん音楽としても好きですよ」

　七瀬は思わず早口でフォローする。ウォルターもそれは分かっているので静かな笑みを浮かべている。

「例えばミュージカルだと実際に舞台を見ているような感覚になれますし、ラップは知らない言葉を知ることができるし、ライムとかフロウ……ええと韻を踏むとか歌い回しの事なんですが、上手な人のは聞いてて心地よいし聞きやすいんですよね」

　つい早口になり、熱心に語ってしまった。

「ああ、すみません。うちばかりぺらぺらと……！」
「いやいや。本当に好きなんだなぁと」

　ウォルターにも同じようなところがあるので共感しているのだろう。

「僕、ウォルターさんの好きな音楽の話もたくさん聞きたいです」
「そうだね。最近はこの辺りのを聞いているよ」

　そういってCDショップの一角を示す。
　それから２人で音楽について深く掘り下げたり、新しいジャンルを話し合った。

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