【配信中！】

　『親子対決勃発！？』『仁義なきカプギアバトル！！』なんてアオリが乱れ舞うサムネイルを、ぺもっとタップしてみますと。
「どうも、とーちゃんです！　今日も配信、やっていくよ」


　画面に現れたのは赤毛のちょいとイケオジ、古尾 桐人。３８歳、シングルファーザーな転勤族のサラリーマンです。男手ひとつで愛娘を育てるかたわら、多趣味を活かしてMewtuberとしても活動しております。
　彼の配信する動画チャンネルは、カプセルギアを始めとする遊びやホビーの紹介に、時どき料理をしたり、雑談回があったり、題材は雑多に扱います。まだまだ登録者数は少ないですけれど、固定ファンがついてこれがなかなかの盛り上がり。コメント欄もさっそくずらずらっと走り始めています。
「おおっ、ハンドルネーム『かぷぎあざえもん』さん、さっそくのスーパーニャットありがとう！　こんな弱小チャンネルを見に来てくれて、本当にありがたいよ。よし、頑張って盛り上げていかなきゃね」
　昔取った杵柄というヤツで、特に遊びに対しては含蓄深い桐人の語るあれこれを、画面の向こうの子どもたちは興奮気味に楽しみ、ホビーマニアな大人の共感も得ているようでして、今は着々と視聴数を伸ばしているところ。各動画もあれこれと工夫を凝らして見応えバッチリ、きっかけさえあれば一気にブレイクする可能性も無きにしもあらず……かも！
　というおおむね好評なチャンネルですけれど、実のところそれは桐人のみの力ではないのです。
「とーちゃん、もう配信はじめたッスか！？　うちの準備がまだッスよ！」
「ごめんごめん。もう少しオープニングトークで繋いでおくから。というわけで今、桐子がセットアップをしております……え、親父はいいから早く桐子ちゃんを映せって？　ひどいな！」
　古尾 桐子、彼の娘サンの天真爛漫なところや、ちょっぴり男の子っぽくてサバサバしてドライなところ、カプギア始め遊びに全力投球！　なところなど、糸目な彼女がチャンネルの人気の半分は支えていると言っても、こりゃもー過言ではあるまい！
　というわけでひょこっと画面の横から桐子が現れると、コメント欄はずざざざざっと奔流のように流れました。大人気です。
「お待たせッス！　桐子ッス。よろしく頼むッスよー！」
「お、準備できたみたいだね。タイトルにもあるけど、今日は僕と桐子で、カプギア対決をするよ。じゃじゃーん！　あ、カメラを向けてっと」
　桐子が用意していたモノに、桐人が映像をスライドしてみせますと。
「カプギアのバトルフィールドッス！」
　どやっと胸を張る桐子の後ろに見える、積み木で作った四角い塔は、ビルでしょうか？　乱立するそれらの横にはジオラマの樹々、車や動物のフィギュアなどが無造作に置かれていて、部屋の中はまるでおもちゃ箱。なるほどここをカプギアが疾走しながらバトルするのは、楽しくって見応えもありそうです。
「ずいぶん凝ったねえ、桐子。すごいじゃないか」
「へっへっへー。今日はこのフィールドで、とーちゃんをコテンパンにやっつけるッスよ！　応援よろしくッス！」
「なにを、とーちゃんだって負けないぞ！　というわけでカプギアバトル、始まるよ～。あ、勝ったほうは晩ごはんのギョーザが１コ増えます」
「きーてないッスよ！？」



　桐子の愛機は、いつもの相棒『トルーパー』。機動性で翻弄し、必殺のパイルバンカーをずどん！　とぶち込むスタイルで数々の相手を下してきたツワモノです。カプギアを始めてしばらくたち、桐子の腕前もぐんぐん上がっておりますから、そんじょそこらのビギナーじゃあ相手になりません。
「突撃ッス、トルーパー！」
　ローラーレッグでぎゃりぎゃりと疾走しながら、トルーパーは右腕のヘヴィマシンガンを構えます。
　いっぽう、対する桐人のカプギアは、ちょっとイビツなシルエット。この日のために組み立てた特別製、と彼は語りますけれど。
「負けるな、『とーちゃん号』！　父の威厳を見せるんだ」
「うわ～。見た目もネーミングもダサイッスね」
「ひどいなあ。真面目に作ったのに」
　鎧武者のボディに、頭はミラーボール。右腕にはパワーショベルがついていて、左手には魔法のステッキらしきものを持っています。ゴテゴテとした上半身に比べて、下半身はやけに細くてアンバランスです。いかにも強いパーツを詰め込みました、という趣きのカオスなカスタマイズですけれど、ともかく桐人の操縦に合わせてしゃきしゃきと軽快に走ります。ま、いろんなカプギアを組み立てるのも、楽しみのひとつですからね。
　ローラーでずぎゃぎゃぎゃっと肉薄し、うなりを上げるヘヴィマシンガン。
「おおっと、あぶない！」
「避けられたッス、でも逃がさないッスよ～！」
「なんの、こっちの番だ！」
　ショベルアームをぶおんっ！　積み木をどかんと崩しましたけれど、トルーパーにはかすりもしません。どころかアームの重量に振り回されて、逆にバランスを崩してしまいました。
「あれー！？」
「今だーッス！！」
　虎の子のパイルバンカーががしょんとスタンバイ。狙いを定めて、ずどん！
　しかし必殺の一撃は、魔法のステッキからほわほわ放たれた花びら状の弾丸によってそらされ、わずかに頭部ミラーボールを削り取ったのみ。
　行き詰る攻防に、コメント欄も忙しなく流れます。
　ミラーボールがくわわっと輝き、目つぶし！　トルーパーのカメラが焼き付いて一時的に見えなくなってしまいますけれど、そこは桐子の熟練ギアマスターのカンと経験が活きました。続くお花弾の追撃を華麗に回避し、間合いを離しつつマシンガンを連射！
「ふっ。さすがとーちゃん、やるッスね……でも！」
「僕の娘だけあって、遊びも真剣勝負というわけだね。しかし！」
　ざざん、と再び対峙するトルーパーととーちゃん号。
「「晩ごはんの追加ギョーザは渡さない！」ッス！！」



　と盛り上がりを見せたまま、最後はやっぱりトルーパーのパイルバンカーがずがっと炸裂！　見事決着がつき、好評のまま動画は終了。
　後日報告されたところによれば、晩ごはんのギョーザの最後の一個は、半分こして仲良くいただいたということです。