アンニュイ・オータム｜リアクション

アンニュイ・オータム

◆ウインドウショッピング

　人間、気分が乗らない日というのはある。
　ちょっとした不幸がいくつも重なったり、突然スランプに陥ったり、はたまた単なる気分の落ち込みだったりと考えられる原因はいくらでもある。明確な理由が無い以上、『そういうこともある』と考えるしかない。
　小山内海はまさにそういう日を迎えていた。それは受験勉強の合間、スケッチに出かけた時のこと。
　
（なんだか、気分が乗らないなあ……）
　
　急なトラブルで予定が空いたので２人の恋人に声を掛けてみるも、２人ともそれぞれに用事があって都合が付かなかった。ぽっかり空いた時間を無為なものにしたくない。そう思って出かけたのが良くなかったのか、驚くほどに筆が進まない。
　なにか描こうと見回しても、これといったものが見つからない。いざ描き始めても、何かが違うと思って止まってしまう。しばらく歩き回りながら唸っていた海は、観念したように立ち止まる。

（うん、しょうがない、こういう時は気分転換に別の事をするに限る）

　別に課題などで時間に追われているわけでもないし、受験勉強もそこまで追い詰められているわけでもない。わざわざ自分で自分を追い込むようなことをする必要はない。
　海はスケッチブックを鞄にしまうと、ウインドウショッピングに赴いた。画材や文房具といった、必要な消耗品を買いに行くのではない。気ままにぶらぶらと、気の向くままに歩いて、気になったら立ち止まる。目的をあえて持たない、そんな買い物。

（目的を決めちゃうと気分転換にならないから）

　海はとにかく歩いた。目的がないからこそ自由に歩ける。綺麗なもの、可愛いもの、素敵なもの。そのとき惹かれたものに近づいてはじっくり眺める。２人の恋人のことを思い浮かべながらショッピングモールを見て回ると色々な気持ちも出てくる。

（あれは似合いそう。これは贈ったら喜んでくれるかな？　あっちのを付けてたら『似合ってる』って言ってくれるかな？）

　あれこれと考えながら歩くと楽しくて、気が付けば時間もあっという間に過ぎていた。来るときに感じていた憂鬱も無くなって、気持ちも上を向いていた。

（そろそろ帰らないと）

　海は軽い足取りで帰路に着く。

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