アンニュイ・オータム｜リアクション

アンニュイ・オータム

◆効果的な休暇

　とある日の昼下がり。旅鴉月詠は憂鬱な気持ちを抱えていた。

（インスピレーションが来ない。まあこんな時もあるだろう）

　しかしずっとぼーっとしているわけにもいかない。彼女は荷物を鞄に詰めると外に出た。
　向かった先はキャンプ地。天気は良好。彼女は持ってきた機材を組み立てて配信の準備を整える。さっそく配信を始めると、いくつかコメントがついた。

「憂鬱な昼下がりにこんにちは。はい、今日のタロット占いは死神を引いた魔女だ」

　月詠は淡々とカメラの前で語り始めた。

「常に抜群のコンディションだなんてことはない。生活のリズム、体調の変化、星の巡りなど様々なものが君を襲うだろう。それに常に気を張っているのは疲れるだろう？　そんな時はどうするか」

　彼女は一呼吸置いた。

「諦めていいのだ。つまり休むのも１つの手段だ」

　身も蓋もないことを自信満々に言い切った。

「諦め方にも色々あるが、全く違う事をして気分転換してみるというのがある。だから私はここに来た」

　話しながら着々と作業が進み、いつのまにか、これこそキャンプといった様子が出来上がっていく。

「ではまずはこれから始めよう」

　月詠は程よい大きさの木材を切株の上に置くと、ナタを振り上げて割っていく。

「こうして木を破壊していく。そしてこれが破壊された木の末路だ」

　料理番組みたいに画面下から薪の束が現れた。『ウェルカムトゥザキャンプサイト』というペイントが眩しい。

「さてここまで終えたら、次にやることは『火あぶり』だ」

　厳かな物言いの背後では焚き火台がちゃっかりセットされている。火種を入れて薪をくみ上げて着火すると、火が上に広がり、薪へと移っていく。

「破壊と創造は表裏一体。まさに死神だ」

　やってることは焚き火なのに、壮大な雰囲気を醸し出している。

「ひたすら創造しているだけでは得られないものもある。時には破壊に委ねてみるのも楽しいぞ」

　意味ありげな笑みを浮かべつつ月詠は焼き網とホットサンドメーカーをセットする。さらにソーセージ、ベーコン、卵を取り出した。

「美味いものを食うのもいいぞ」

　ベーコンから溢れた油の上でソーセージと卵がじゅわっと音を立てる。シンプルゆえにダイレクトに旨味が感じられる。味付けは塩をさらっとふりかけるだけ。

「憂鬱な時でも腹は減るからね」

　プシュッとジンジャーエールの缶を開けるとグラスに注ぐ。シュワワと聞こえる炭酸の音が心地いい。

「さて冒頭で話した通り、私は一旦諦めて休もうと思う。君たちも休むことをオススメする。逃げることは恥ではない。目標があるなら立ち止まったり回り道をするだけだ」

　では効果的な休暇を、と最後に言って配信を切った。目の前には美味しく焼きあがったソーセージにベーコンと卵。その隣にはジンジャーエール。

「それじゃいただきます」

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