【演劇祭】舞い廻れ、ロミジュリたちよ！｜リアクション

【演劇祭】舞い廻れ、ロミジュリたちよ！

●幕間　イロコイ異聞

「倉前、ウォルター先生、オツカレです」
　薄暗い舞台袖に戻ってきた倉前七瀬とウォルター・Bを出迎えてくれたのは、桜井ラッセルだった。
　わずかな幕間と、休憩。
　裏方のスタッフたちが慌ただしくしている中、
（先生は気にしとらんかもしれんのですが、これは伝えておかねば）
　そんな気になって、七瀬はウォルター先生に耳打ちする。
「ウォルター先生、うちは先生の傍にずっとおるけんね！」
　舞台上では言葉を発することができなかった分、伝わってくれとばかりに手をぎゅっと強く握って。
「倉前？」
　ウォルター先生は一瞬なんのことかと見つめ返して、それから、ふっと肩の力を抜いて笑った。
「お疲れ。ありがとう」

◇

　声までは聞こえないものの、笑みを交わし合う七瀬とウォルターを、ラッセルはどこか、かさぶたを弄るような気持ちで見守っていた。彼らがどんな関係なのか本当のところは知らないが、彼らの間に流れる空気を、いいな、と思う。一方で、つきんと痛む気持ちがあるのも本当だ。
（イロコイは今はあれだけど……俺が当事者にならなきゃ平気か。心は）
　ロミジュリ、という題材に対して抱いた思いを、二人を見ているとまた思い出す。
　すこしだけ感傷のようなものに意識を囚われかけていたら、背後を通りかかったフジコ先生にお尻をぽんっと叩かれた。
「ほーら、ぼーっとしている暇はないわよ！」
「あっ、ハイ！」
　正直、声を掛けられたのはありがたかった。
　今は感傷に浸る時じゃない。
「次はアラビア風よ、準備できてる！？」
「演劇部の備品を手直しして小道具と衣装は用意しましたっ」
「主人公の剣はどう？」
「アラビア風の曲刀ですよね、創りましたっ！」
「助かるわっ。デイジーカッターちゃんったら、本物の刀剣を持ち込もうとするんだもの！　危ないし、本物って案外、舞台映えしないのよ～」
「分かってます！　その次のシーンも海賊モノで剣使うんで、２本、用意してます！」
「いや～ん、流石よ！　頼りになるわ～。じゃ、引き続き頑張ってね！」
　フジコ先生にバシバシッと背中を叩いて激励され、ラッセルは背筋を伸ばす。
「ハイッ」
　ないものは作ればいい。時短と拘りが大事だ。
（将来美術を作る職もいいよな♪）
　こうして慌ただしくも楽しく裏方していると、そんなことも考える。
　向こうで次の次の幕の準備をしていた七夜ソラが慌てている。
「あーっ、海賊旗が必要だって。黒い布と白いペンキがあれば作れそうなんだけど……」
　こんなときこそ、自分の出番だ！
「急ぎか？　買い出しなら俺が請け負うよ」
「いいの？」
「勿論。いっちょ、カナリア特急で行って来るさ！」
　舞台裏を飛び出すと、人目を忍んで＜黄色いピヨコ＞でカナリアに変身。帰りは猛禽類になれば、すこしくらい重い荷物もへっちゃらだろう。