その一枚に思うこと｜リアクション

その一枚に思うこと

☆おうちデートで懐かしい写真

　キャットロード裏手にある初瀬川理緒のアパート。
　歓楽街に近いため閑静とはいえないが、おかげで家賃が安いのはありがたい。
　おしゃれなメゾネットタイプで螺旋階段つきの部屋で、理緒と恋人の佐和崎紗月はおしゃべりしながらくつろいでいた。
　今日は大学もグラビアアイドルの仕事も休みで、おうちデートを楽しんでいる。
「あの時はびっくりしたなあ、気が付いたらソフニャップでカメラを向けられてるんだもの……」
「……私も、いつの間にか大学にいて何が起こったのかと思っちゃった」
　刺激を求めて外へ遊びに行かなくても、好きな人と二人だけの時間はそれだけで楽しい。
　話すことはたくさんあって、何時間かおしゃべりに花を咲かせていた。

　しかし不意にネタ切れになって。
「しゃべり疲れちゃった、何か飲み物でも飲もうか」
「そうね、ちょっと一息入れたいかも」
　理緒が立ち上がり台所へ向かうのを、紗月が追っていく。
「カップ出すね」

「美味しい」
　温かいお茶を飲んで、二人は微笑みあう。
　一息ついた後、
「そういや」
　なんとなしに思いついて、理緒はスマホでニャンスタグニャムを立ち上げた。
「どうしたの？」
　いろいろ操作している様子の理緒に紗月が尋ねると、
「あった！」
　目当ての画像が見つかって、理緒はスマホを紗月に差し出した。

　もちろん紗月は理緒のニャンスタグニャムをチェックしているけれど、載っている写真が多くて前のほうまでは見切れていない。
　その画像は見覚えがなかったから、古いものだろうということはわかった。
　今よりも幼い感じの理緒の姿。
　ネオンカラーの鮮やかなビキニと白いパーカーを合わせて、輝くような笑顔でこちらを見ている……のではなく。
（なんだか不安そうに所在なく立ち尽くしているような……）
　紗月はそんな感想を抱く。
「16歳の時、初めてのグラビア撮影で沖縄へ行った時のものなんだ」
　理緒は話し始める。
「あの時のことを思い出すな。何もかもが初めてで緊張しっぱなしでさ。特にビーチでビキニを着ての撮影なんて、最初はもう本当に恥ずかしくてビクビクオドオドしてたんだよね」
「理緒ちゃんでも？」
　紗月は意外に感じてしまう。
　太陽のように明るく元気な理緒ちゃんに、そんな時があったなんて。
「そう。夏の日差しの熱さ以上に気恥ずかしさでさらに熱くなって。カメラマンの指示にうまく従えてるかどうかすらわからなくて」
「そうなんだ……でも、うまくいったんでしょ」
「なんとかね。右も左も上も下もわからず、とにかく体当たりでぶつかったって感じ。で、これはその時に写された、休憩時間中のもの。何となく気に入ってニャンスタに入れてるんだ」
「すごくかわいい……」
　そのどことなく初々しい姿に、紗月はつい見とれてしまう。

「そうだ、私も……」
　紗月は理緒にスマホを返すと、自分のスマホを取り出して操作し始めた。
　一枚の画像を表示し、理緒に見せる。
　そこにはピアノを弾く小学６年生の紗月の姿があった。
「可愛い……ドレス姿だし、発表会？」
「うん、小６の、ピアノコンクールの時の」
「大人びた切なそうな表情……いいね」
「なんとなくこの写真が好きだったから、スマホの中にいれておいたんだよね」
「紗月のピアノ、また聞きたいな」
「そう？　……それじゃ、練習しなきゃ」
　そうやってお互いのお気に入り写真を互いに見せ合った後は、そこからさらにおしゃべりの花が咲いたのだった。

このページにイラストを設定する