その一枚に思うこと｜リアクション

その一枚に思うこと

【萌々子5歳・公英15歳の写真】

☆幼稚園の時の姿

　寝子高２年の愛猫萌々子は、桜花寮の自室の掃除をしていた。
「あら？」
　しまいこんでいたものを箱から取り出していると、中に写真立てがあった。
　入っているのは、学生服を着て小さい女の子を抱いて立つ少年の写真だ。
「これ、私が幼稚園の時の……！　お兄様は中学生でしたっけ。たしかこの時撮ってくれたのはお母様でした」
　大切にし過ぎて仕舞い込んで、そのまま忘れていた。
　１０歳上の兄との写真を、萌々子は懐かしく見つめた。

　今は駆け出しのシンガーソングライターとして、アメリカでライブハウスでの演奏や、路上ライブや演奏している動画を投稿して活動している兄だが。
　写真の少年は黒髪に黒縁眼鏡だ。知らない人が見たらとても同一人物とは思わないだろう。
「当時のお兄様は真面目な雰囲気で、成績もよかったような。音楽に出会ってミュージシャンになると決めたのは大学生になってからで、他に好きなこともないからとひたすら机に向かっていた記憶があります」
　音楽の影響で髪を染めて服が派手になったのは、この写真から大体3年ぐらい後だった。
（あの時は私もお母様もびっくりしましたね。今思えば仕事続きで家に帰らないお父様への抗議もあったのかもしれません）
　「でもこの写真の時も今も私に優しいのはずっと変わりませんね。抱っことか肩車とか、力のいることは不在のお父様に代わっていつも遊んでくれてました」
　10歳離れているからか、かなり溺愛されていた気がする。

「懐かしいですね……お兄様と話したくなりました」
　スマホを出そうとして、アメリカとは時差があることに気づく。
　８月に兄の誕生日に電話した時は、その時差が幸いしたが。
「向こうとの時差に気をつけて電話することにしましょう」
　それにしても真面目そうな写真の兄に、萌々子はつい笑みを零してしまう。
「お兄様と先輩が会ったら、どんな感じでしょうか」
　今の姿だけでなく、真面目な学生に見える兄と話す先輩の姿も見てみたかったかも、などと思う。

　ちなみにこの写真は同じものが2枚あり、兄も大切に持っているはずだった。

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