この道の続く限り｜リアクション

この道の続く限り

青山絢は、台本(薄い)を広げ、深呼吸をした。『寝子街闘者　晩夏の陣』でデビューを飾ったこの夏、演じ切ったの日の光景が頭に浮かんでくる。
辺りを見回すと、あわただしく撮影の準備をしている。スタッフが何人か。
「ああ」
と、女性のスタップが歩み寄って来た。
「もうすこしで始まりますからね。あ、曲聞いてます?」
差しだして来たのは絢を見いだしたシンガーソングライターの曲のCDだった。
さすがにCDプレーヤーはもっていない。
「ああ、ごめんなさい。すぐにダウンロード出来るから」
　気持ちをたかめるのはいいかもしれない。アプリから曲をスマホへとダウンロードし、イヤホンを
使って聞きはじめる。小気味いいイントロが流れはじめ、明るい曲調から除々に切なげで不思議なメロディへと変わってゆく。恋の始まりと終わり。その1年間を描いた歌詞は、とても共感出来た。
「ふう」
　聞き終わって、イヤホンを外す。丁度、出番のようだ。絢は準備運動をしつつ、海沿いの道に立つ。
「後、数秒です」
「うむ」
　スタッフと監督のやり取りののち、電車が走る音がし始めた。時間が押している。やはり、一発撮りになりそうだ。
「アクション！」
　視界の端で高速の電車が動いた。地面を蹴る。海風が頬を撫でた。
「はあはあっ」
　スピードが乗って来たので、電車の方を見る。
『走るねこでんに乗る恋人を全力で追いすがる』演技。
　想像して、涙を溜める。風が冷たい。
「待……って」
　カメラは正面と横を並走している。電車も、少しだけ早く。色々な風が、吹き抜けている。
　しばらくして、ゆっくりと足を止める。肩を揺らしながら、去っていく電車を見つめていた。
　汗が、頬を伝った。しんとなる現場。やがて、拍手が起こる。
「いいね！　躍動感！」
「なんか見惚れちゃった」
「絵が綺麗だった」
　絢は少し恥ずかしくなり、ぺこりと頭を下げた。

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