シャーク・オブ・ジ・アポカリプス｜リアクション

シャーク・オブ・ジ・アポカリプス

『桜せんせい、大会ってどんなところなの？』
「水泳大好きな人が集まって、誰が一番速く、きれいに泳げるかを競うところよ」
　休憩時間の雑談に、ほぇ～、と感嘆の息をもらすサメ乃助。
　テオの呼びかけを聞いたのは、寝子島スポーツセンターに自主練に行くところではあった。人語を喋るサメに泳ぎの指導をする羽目になっていても、プールには入れたからいいだろう、とは思えない。
　桜は寝子島につきものの『フツウ』が大嫌いなのだ。
「さ、続きをしましょうか。修先生が教えてくれたこと、覚えているかな？」
『はい！　ようりょくとりゅうたいりきがくです！』
　理論派らしい修は、ホワイトボードを背に講義した。――即ち、サメ乃助の丸っこい体型で、どのように動けば水の抵抗が少なく泳げるか、である。
　念力で体を動かして、空をも飛べるサメ乃助は、水中でもついそれをやってしまうようなのだが――空中と同じようにいくはずもない。
「方向転換する時は、どうするんだったかな？」
『はい！　体全体を動かして、尻尾で方向を決めます！』
　プールの壁を目前にしたサメ乃助が、尻尾をぐいっと振って方向を変えた。
「速く泳ぐときは、どうするの？」
『はい！　胸びれを伸ばして……尻尾を速く動かします！』
　初対面の時は大分もたついていた泳ぎも、幾分かスムーズになってきた。
「すごいよ、サメ乃助！　今までいろんな先生に教わったこと、出来るようになったんだね」
　桜は思いっきりサメ乃助を褒め、皆との情報共有を思い出した。
　紫は呼吸の仕方から。
　蒼は真剣になりすぎないように、楽しく。
　莉鳥は黙って一緒に泳ぎ、ラッセルは「俺も昔は泳げなかったんだぜ、お前だって出来るよ」と励ます。
　――などなど。
　決して『フツウ』が好きでない桜だけど、サメ乃助が一生懸命頑張る姿を見ていると、教えるのに力が入ったりするのだ。
「水上さん、サメ乃助ー！　ご飯できたよー！　今日はトマトのパスタ、サメ乃助はイワシね」
「椎井さん、ありがとう。もうお腹ペコペコ」
『ボクもー！』
　準備をしておくから、という莉鳥に断って、桜はシャワー室へ向かい、着替える。
　プールそばのテーブルでは、目にも鮮やかなトマトとチーズのパスタと、缶詰のみかんを使ったサラダが並んでいる。
「わぁ、おいしそう！」
　莉鳥が椅子を引いてくれるので、礼を言って座る。
　皆で頂きますを言い、口に運ぶと、ゴロゴロと大きく切られたトマトの食感が楽しい。
「この大きいトマト、いいね！　椎井さんが作ってくれたの？」
「うん、そうだよ」
　パスタとサラダを食べながら、サメ乃助の泳ぎの上達度を皆に伝える。
「サメ乃助はね、素早い方向転換が出来るようになったんだよ」
「本当か？　それはすごいな」
「後、大分速く泳げるようになった。もう、人間はついていくのが苦しいかも」
「うふふ、よかった。これで呼吸のことを心配しなくてすむわね」
　紫は、テーブルの下でテオがイワシにがっついているのを見ながら、プールに視線を向ける。
　そこでは、自分の食事そっちのけで、サメ乃助にイワシをあげている博士の姿が。
「俺もアレ、やりたいなぁ」
「やらせてくれるかな……博士、サメ乃助のこととなると、すっ飛んでいくからね」
　寂しそうなラッセルと蒼の頭を、紫はそっと撫でたのだった。