シャーク・オブ・ジ・アポカリプス｜リアクション

シャーク・オブ・ジ・アポカリプス

『海原の誇り号』が寝子島を出発してから、何日が経っただろうか。
　プールを半分囲むように設置されたテントの中には、スクリーンがあり、隕石の映像が投影されていた。
　柳川博士が、知人私有の人工衛星のカメラを一時借りているのだという。
「サメ乃助、安心しろよ。途中まで俺もついて行くから」
『うん。ラッセルせんせい、ありがとう』
　鎧姿で落ち着き無くプールを泳ぎ回るサメ乃助に、ラッセルは声をかける。
「サメ乃助、隕石の相対的な位置は今ここで、地球にぶつからないよう軌道を逸らすには、入射角42.5°で思い切りぶつかる必要がある。その都度インカムでこちらから指示するから、何の問題も無いさ」
『りょ、りょーかいです』
　パソコンでの軌道計算を、スクリーンに投影して説明する修。
　対隕石の前線に立つのは、サメ乃助に管制の修とテオ、鷲の姿で同行するラッセル。
　紫は船の周囲を監視を担い、博士は３人が戻ってきた時に食べる料理を、腕によりをかけて作ることになっている。
　桜と蒼は怪我の手当の準備、莉鳥はそれを手伝いつつ、隕石の欠片に対処する担当だ。
『博士、テオ、せんせーっ、行ってきまーす！』
　皆に見送られて、空飛ぶサメが出発した。

◆

　サメ乃助が海で泳ぎ出すと、修はインカムに通信を入れた。
「サメ乃助、いいぞ。最高のスピードだ。……うん、目標地点まで到達。離水開始」
『了解！』
　声と共に、サメ乃助が海水ごと空中に浮かんで上昇してゆく。成層圏手前まで行ったところでラッセルが離脱。
「あぁ、神様……サメ乃助をどうぞ無事にお返し下さい……！」
　料理が終わったのか、博士が修の隣で映像を見ながら祈っている。彼は隣の灰色猫が神だということは知らないだろう。
　いつの間にか皆が甲板に集まり、じっと映像を見守っている。サメ乃助は大気圏を抜け、引力の軛を振り切って宇宙に出た。
「すごいね、サメ乃助は……宇宙って水は液体でいられないんでしょ」
　海水球はまだ形を保ったままだ。
「ほんとにな。それほどまでに強烈な念力ってことか」
　莉鳥の言葉に、空から戻ってきたラッセルが口笛を吹く。
「隕石が見えてきたな、サメ乃助。そのまま二時方向、今の角度だ。いいぞ、ぶちかませ！」
「やっちゃえ！」
「いけいけ！」
「それ、どーん！」
　修に続いて、蒼や紫、桜も拳を振り上げて喝采だ。
『ボク、行きます！』
　サメ乃助の瞳がギラリと輝いたかと思うと、次の瞬間。
　宇宙では音が聞こえないという知識なんて消し飛ぶほどの衝撃が、映像から伝わってきた。
「うぉっ、ととと」
　テオがふらりとよろめいたくらいだ。
『わー！』
　映像の中のサメ乃助は、隕石に体当たりした影響でくるくると回転したが、念力で体勢を立て直したようだ。
「テオ、隕石は？」
「よーし、ありゃもう地球へは衝突しないコースだな」
　桜の問いに、テオが猫の手でパコパコＰＣを操った。隕石は小さな欠片をまき散らしながら、青い地球を逸れてゆく。
「八神君、そろそろ私たちの出番？」
「そうだな。サメ乃助の努力を無にできない。流れ弾は俺たちが処理しなくては」
　修は莉鳥と共に空を見上げた。

このページにイラストを設定する