十三夜の隙間｜リアクション

十三夜の隙間

　何か面白いものでもないか――桜井ラッセルがあてもなく桜花寮から足を向けた先は、大きなショーウィンドウのある画材屋だった。
　ジャックオランタンを被った子供と手を繋ぐのは、魔女とドラキュラに扮した両親だろうか。微笑ましいその絵に、誰かと組んでみるのもありだなと想像を膨らませる。
　あまりに度胸が必要なネタには乗れそうにもないが、仲間と悪ふざけのように笑い合える物ならば、なんとか……ならないかなぁと苦笑してみたりして。
　アイツならこんなのが似合うんじゃないか、この衣装だったら先生も巻き込んでみるとか。そうして提案し合って、誰かに選んで貰った衣装を着るのも悪くないかもしれない。
（ネタじゃなければ、だけど）
　それは嫌なこととして事前に伝えて、その代わりに出来ることも伝えれば良い。今はちゃんと、思いを口にすることができる。
　懐かしむように空を見上げれば、暗くなるのが早くなった空には少し歪な月があった。
　パッと見ただけでは満月のように輝いているのに、まじまじとみれば欠けているそれは、もしかしたら『期待外れ』と思う人もいるかもしれない。
　勝手に期待されて勝手に幻滅されるなど、たまったものではない。それはラッセルにとって痛いくらい同意することができた。

『がいこくじんのくせに』

　誰かが何気なく言ったのか、もしかしたら……まったく違う話を否定的に受けとっただけかもしれないのだけど。端的に『余所者』だと言われた気がして、ある日を境に学校が怖くなった。
　遠巻きに顔色を窺うような視線に、声を潜めてクスクスと笑う声。
　金髪なのに英語は喋れないのか、なんて外見を揶揄する声にすら反発できなくて、ただただ言葉を発せず『怖い』で溢れてしまった時がある。
　けれど、世界の全てが怖かったわけではなかった。家が近づけば誰もに元気よく挨拶をして、食卓も賑やかだったと祖父は語る。
（何があんなに怖かったんだろうなぁ）
　今となっては、小学生の狭い世界に変わった物が入ってくれば、遠巻きに見る気持ちだってわかる。
　周りの視線や声に過敏になりすぎて、その感情を誤って解釈していたこともあっただろう。
　黙りこくっていた自分になんとか声をかけようと、悪戦苦闘していたのかも――なんて、それはちょっと前向きすぎた考えかもしれないけれど。

　歪な月に手を伸ばし、それが何かが欠落した過去の自分であるのか、まだまだ成長途中の自分であるのか自問自答する。
　解決策を知りたい頃には糸口も見つからなくて、克服した後に知ったあの症状の名前。
　名前がつくくらいには一般的にある症例だと知って安心したのか、今更だよって笑えたのか。絵を切っ掛けに変われた自分を、ずっと見守ってくれた人がいる。
　今は、あいつのように――いや、笑顔で話しかけてくれた人たちに返せる何かを持った、もっと大きくて明るい存在にもなれているだろうか。

　これからもきっと、喋れなかった分を取りかえすように声をかける。
　輪に混ざれない人も、心の内を吐露するのが苦手な人も、困っている人には特に。
（大丈夫だ）
　まずはそれを、届けてあげたい人が居る。

　――アルバムの向こう側の君は、知っているかな。
　今の俺が笑えることを、その先でちょっと頑張ったことを。
　変わらなくていい、っていうか変われない。俺は俺でしかないから。
　ゆっくりでいいから顔をあげてみなって、騙されたと思ってさ。

　ほら、俯いてるのがもったいないくらい……綺麗な月だろ？

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あとがき

担当マスター：浅野悠希
ファンレターはマスターページから！

みなさまご参加ありがとうございます、浅野です。

お月見シナリオ第二弾でした！
星や月絡みの逸話は大好きなので、こうしてお届けできることになって嬉しいです。

ゆっくりゆっくり、寝子島の季節を感じてもらえたらと思います。
嬉しい隙間も、切ない隙間も、たくさん絡めて頂いてありがとうございました！

ご意見ご感想、もしくは「読んだよ！」の代わりにダイヤリーのページチェック入れて頂けると、めちゃくちゃ喜びます。
お時間ありましたら、よろしくお願いします～！

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