ヒカリの雨の降る街で｜リアクション

ヒカリの雨の降る街で

　今日も寝子島には雨が降る。もうこの空が晴れていたことを覚えている者も、少ないのではないだろうか。
　見上げることすら忘れて、ただヒカリを遮る屋内や地下で過ごすことが当たり前になって。限られた場所で、ひっそりと息を潜めて生活するために使えなくなった物も多く、人々は不便を強いられた。特に、デジタルに慣れすぎた若人には毎日を過ごすだけで手一杯だ。
　けれど、失わなかった物もある。それは『もれいび』が持つ特殊な力、『ろっこん』だ。
　全てが何かの役に立つわけでもなく、普通の人と同じように暮らすことを望む者もいたけれど。ろっこんを持たない者だって無力を嘆くばかりではない。
　寝子島に住まう人間の一部は、現状に屈服せずレジスタンスとして立ち上がった。

　――タイヨウのコアを手に入れれば、ヒカリの雨は止む！

　確証はない。そんな物があるかも未確認だ。
　それでもレジスタンスは諦めず、発光体に襲われる危険と隣り合わせになりながら探し続けた。もう何年も。
　だから、シオ・レイゼルオークでなくとも我が耳を疑ったことだろう。
「みつけたの？　そう、そっか……」
　区画F9の地下に駆け込んだ七夜あおいからの報告は、その場に居合わせた椎井莉鳥の耳にも入った。ちょうど先日、有力な情報が入ったとあって調査に向かおうとしていた所だ。
　ここは情報や遮光装備、その他諸々を調達の請け負うシオの店。
　物資を確保するにもヒカリの中へ赴かねばならない今、無償で提供できる物などない。磨けば使える廃材に食料、生きるために必要な物は何かと引き換えにして手に入れる――そうして覚悟と素養がある者は、レジスタンスに引き抜いて戦力を整えてきたのだ。
　やっと、という思いもある。今頃、と帰らぬ者となった仲間に心も痛む。しかし、良かったと安堵するわけにはいかない。
　無ければ諦めもついたのに、あったとなっては危険に飛び込む人が増えてしまうからだ。
「仕方ないですね、今日は奮発しましょう」
　傘に雨合羽、マスクにゴーグル。前衛に躍り出ることのないシオにできるのは、支援だけ。既にレジスタンスのメンバーである２人には、改めて契約書を発行する必要もないのだけれど……シオは「破格で譲るには条件があります」と書面を起こした。

　依頼内容：タイヨウのコア確保
前払い報酬：装備品一式
　　　条件：生存しての帰還

「確認の上、サインを」
　今までシオが逞しく小悪徳に生きてこれたのも、ゼロより怖いことはないと見返りを求めたためだ。けれど今回の条件を見れば、あくまで事務的な態度を取ってはいるが、心配していることは伝わってくる。
　その思いをくみ取るように、あおいと莉鳥はしっかりとサインをした。

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