眠れば天使、起きれば悪魔、遊ぶ姿はsuper cute！｜リアクション

眠れば天使、起きれば悪魔、遊ぶ姿はsuper cute！

　乳児クラスを任された稲積柚春は、ちょっぴり安心していた。
　ベビーベッドの床全体に柔らかいマットを敷いて、扉の前には大きな柵があり教室全体がベビーベッドのようになっている空間。気ままにはいはいをして教室中を冒険していたり、果敢にも柵を掴んで立ち上がろうとする子もいるので、目が離せないという点では決して安心できるクラスじゃないのだけれど。
「……さっきみたいなの、よくあるんですか？」
「んー？」
　同じクラスを担当することになったウォルター・Bは、園児がおもちゃを囓って涎まみれになっているのを拭いてやりながら、すっとぼけた顔をしている。
　彼がモテるんだろうなぁとは漠然と思っていたし、気を持たせるのが上手いから迫られても簡単にあしらっちゃうんだろうなぁと思ってはいた。だけれど。
「頻繁に来るところでもないでしょ、保育園なんてさぁ」
「小さい子相手じゃなければ、逆ナンされるってこと？」
「ご想像にお任せしまぁす」
　それって、と言いかけた柚春の膝に園児が手を乗せた。力を入れてはコロンと転がって、それでもめげずに何度も柚春の膝に手を乗せてくる。
（そりゃあ、聞いたところで僕には何も制限できないけど）
　気を持たせないように冷たくあしらってほしいなんて言えないし、遊びと割り切って大人な関係を選ぶことだってあるだろうと、わかってはいる。清廉潔白な人であってほしいと願うのは、それこそ理想の押しつけだ。
「この子たちが、まだ言葉を話せなくて良かった」
　好きな人がナンパされている様子なんて、あまり目撃したい物じゃない。その安堵をぽつりと零したら、ウォルターは少し考え込むようにして抱っこをせがむ園児を抱き上げた。
「それはどうかなぁ」
　そのままじっと柚春を見つめるだけで、その頬は朱に染まる。じぃっと見つめているだけなのに、勝手に狼狽えだしてしまう。
　言葉なんて手段の１つでしかないのだと、言われた気がした。
「うー……」
　柚春の膝に捕まっていた園児が、今にも泣きそうに顔を歪めた。せっかく立ち上がったのに見ていなかったのが悪かったのかと慌てて笑顔を向けるけれど、どれだけ笑っても凄いと手を叩いても喜んでくれない。
「どうしたんだろう、眠いのかな……」
「可能性を１つずつ潰していくしかないねぇ。空腹か、おむつか、遊びたいのか」
　子育ての経験が無い以上、なんで泣いてるかはわからない。それでも、ただ１つだけ言えることがあった。
「ウォルターさんは、このこのおむつはやっちゃダメです」
「え、なんで」
「女の子だから！」
　もうちょっと大きくなったら問題かもしれないが、乳児だ。そこに何の問題があるのだろうかとウォルターは目を瞬かせている。
「こんなに格好良い人に替えられたなんて知ったら、大きくなったときに心の傷になっちゃいます」
「大げさだなぁ」
「だって考えても見てください、もし……」
　勢いに任せて『もしも』の話をするつもりだったのに、思いとどまる。
　ウォルターが日本に来たのは大学生の頃。その時の柚春は、恐らく今あやしている園児たちくらいだ。
　もし、当時ウォルターが交流会に来ていたら。もし、引越の多い柚春とどこかで出会っていたら。
「やっぱり考えないでください!!」
　あったかもしれないと思うと、とても恥ずかしい。
　なんとなく会話の流れから察しがついたウォルターは「ふぅん」と小さく笑うだけに留めた。

このページにイラストを設定する

あとがき

担当マスター：浅野悠希
ファンレターはマスターページから！

みなさまご参加ありがとうございます、浅野です。
小さな子を前に、色んな思いが覗けて楽しく執筆させて頂きました。

学生時代に家庭科の授業の一環で保育園に行きましたが、乳児の集団はこわい！
小さくても大きくても大変な仕事だと思います。保育士の皆様には頭があがりませんね……。

ご意見ご感想、もしくは「読んだよ！」の代わりにダイヤリーのページチェック入れて頂けると、めちゃくちゃ喜びます。
お時間ありましたら、よろしくお願いします～！

↑ページトップに戻る