月色カフェは二人で｜リアクション

月色カフェは二人で

＊そうかもしれない、ちがうかもしれない

（叔父さんの店の雰囲気とは違いますし、ちょっと落ち着きませんね）
　津島直治は店内の装飾などを見、眼鏡の奥で目を細める。向かいの席では叔父の柏村文也がにこやかな表情を浮かべていた。
「ナオも素直に言えばいいのに……。高校生になっても変わんないよなあ」
「俺は別に、気になってなんか……」
　カラカラ笑う文也をジト目で見る直治は内心でため息を吐いた。
　ここに来たのも、彼が家で貰ったチラシを見ていた際、文也から「気になるのか？　じゃあ行こうか！！」と連れ出されたからだ（文也曰く、直治が「気になります」って顔でチラシを眺めていたから連れてきたらしい）。
　一方の文也は古書喫茶を営んでいる。その為、他の店舗が気になったらしい。口元をちょっと綻ばせながら何度も頷いた。
（一応カフェのようなものだけど、ガッツリ飲食店ってわけじゃないし……。やっぱりこういうお店って新鮮だよね！）
　文也は直治に「なんでも好きなもの頼んでいいから」とメニューを渡すと自分もまた何を頼もうかと考える。その楽し気な顔を見ているうちに
（叔父さんって意外と新しいもの好きだし、私を連れてきたのも自分が来たかっただけなんじゃ……？）
　なんて考えてしまう。まぁ、ふと目が合った文也の笑顔からは何も読み取れないのだけれども。
「よし、秋月しるこにスイートポテト、それにホットコーヒーにしよう。ナオは？」
「じゃあ、満月チーズケーキと……俺もホットコーヒーにしようかな」
　文也は、直治の注文内容に少々目をすこし丸くする。意外な気がしたからだ。
「え？　ナオもコーヒーにするの？　砂糖とミルクはどうする？」
「どっちもいらない」
　直治がそっと答えると、文也は「へぇえ、大人になったもんだね〜」と、どこか暖かい眼差しで言う。直治にはその言葉が揶揄われているように思いつつ「というか……叔父さん2つも食べるんですね……」と呟いた。

　しばらくして、二人の元にそれぞれのお菓子が運ばれる。三日月型のスイートポテトに、栗と白玉が入ったおしるこ、丸いチーズケーキのどれもが美味しそうだ。
　暫く雑談を交えつつ堪能していた二人だが、ふとスイートポテトもしるこも美味しい、とほっこりしていた文也が口を開く。
「ナオはチーズケーキだけでよかったの？　ほらほら、俺のを少しわけてやるから食べなさい」
「え？　いや、その、食べたくて見ていたわけじゃ……ありがとう」
　直治は、少し恥ずかしがりながらも礼を述べる。確かに「叔父さんが食べているスイートポテトも美味しそう」とは考えていたが……。
「うん……。こっちも美味しいです」
「だろう？　……って俺が作ったわけじゃないけどさ」
　はにかみながらも感想を言う直治に、文也も楽しげに笑う。
　お礼にとチーズケーキを少し分けると、文也は「なかなかいいねぇ」と口元を綻ばせた。
「そういえば、叔父さんって、こういうスイーツも作れるの？」
　ちょっと気になって聞いてみれば、
「普段はやらないだけで、調べれば俺にもできるさ」
　と胸に手を当て、自信があるように答える文也。彼が食後のコーヒーを飲みつつ「……ふむ、俺の店でも秋のメニューだしてみようか」と呟くのを聞きながらも、直治はその様子を見ながら
（叔父さんがそういうならできるのかもしれないし、　適当に言ってるだけのような気も……）
　と疑問を滲ませながらコーヒーを口にする。……が、一気に苦みが舌を刺激した。直治は思わず「うげっ、苦ぃ……」と小さな声で呻いた。
「ははは、まだまだお子ちゃまだな。やっぱりコーヒーは苦かったみたいだね」
　そう言ってミルクと砂糖を直治の前に置くのだった。

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