光を正と言えなくても闇から目を背けない｜リアクション

光を正と言えなくても闇から目を背けない

　ずっと憧れていた。心の底から望んでいたんだ。
　優しい母の笑顔に促されて、滝原レオンは食卓につく。向かいには見知らぬはずの、けれど自分とどこか雰囲気の似た男――直感で父親だと思う人が座っていて、妙に落ち着かなかった。
「どうした、ぼんやりして。何か悩みでもあるのか？」
　なんて返事をしたらいいか解らずに、レオンは曖昧に笑って見せる。
　一度も口を聞いたことが無いどころか、父親という存在がいなかったレオンにとって、接し方などわかるわけもない。
「何よ大人びた笑い方しちゃって。かわいくないぞー？」
　そう隣で笑うのは、自分より少し年上の女性。まさかと思うのに、口は自然と悪態をつく。
「姉ちゃんに可愛いなんて、思ってもらわなくていいし」
　レオンには姉がいた。己が生まれる前に幼くして亡くなった姉が。
　といっても不思議なことが日常茶飯事な場所では、お姉さん風を吹かせていたちびっ子として面識があって、面影はそのままに、随分と綺麗な大人になっている。
（ここには、いくつもの『もしも』が詰まってる）
　他人には『普通』に見える家族の団らんこそが、レオンの手にすることの出来なかった夢のような時間。
　別の世界線か、はたまた願望の見せるただの幻か。
（それでも……）
　このままでいいか、と思ってしまう。
「こら、喧嘩しないの。ご飯も冷めちゃうでしょう？」
　煮込みハンバーグをよそって来た母が、口げんかを窘めるように眉を寄せるけど、全く怖くなかった。
　バケットを切る父が居て、家族とお喋りするためにテレビの音量を下げる姉が居て。
「今日はレオンもお手伝いしてくれたのよね、ありがとう」
　優しく笑う母がいるこの世界が、本当の世界だったら。微かな希望を抱いて周囲を見た。
　明るい清潔感のある部屋に家族写真が飾られていて、知らないはずのその時間の思い出が薄ぼんやりと浮かんでくる。
　入学式など節目から様々な旅行まで、美味しかったものも楽しかったことも、何故か知っていた。
（……あれ？）
　足りない。何が？　誰も不自然に思っていないこの状況で、引っかかっているのはなんなんだ。
「にーちゃんっ！」
　テレビから悲痛な叫び声がする。それはドラマのワンシーンで、知らない俳優が演じているに過ぎなかったけど、確かに自分には。
「……弟は？」
「や、やだぁレオンってば！　お父さんとお母さんが仲良しだからって、弟をリクエスト？」
「いや、違くて……確かに居たんだ」
　中学生になったのに、中身はまだまだ子供っぽい弟。自分が不在でも上手くやるさと放っておくには心配で、一目見たかった。
　そう願うと、さっきは見知らぬ俳優だった弟役が、良く知っている顔になる。こちらを見て困惑する様子は、鬼気迫る名演技で。
（違う、これは）
　思わず席を立ったとき、家族だと思っていた３人が冷たい目を向けた。座ればあの温かな時間は戻ってくる、だけど泣いてしまったあいつには、もう――。
「俺は戻る、今すぐ身体を返せ！」
　そうテレビに向かって叫んだとき、世界がモノクロになって停止した。ふわりと姿を現したもう１人のレオンは、顎で母親の方を差す。
「あんな悲しい顔させていいのか？　ここに居れば、誰もが幸せになるんだ。そうだろ？」
「俺だけ嫌だから逃げますなんてできねえよ」
　人は、どこかしらで我慢を強いられる。絶望しか無かった幼い日とは違って、今は我慢をしてもお釣りがくるほどの楽しいことがあるのだ。
　それが伝わったのか、もう一人のレオンはパチンと指を鳴らす。この世界が消える前にと、レオンは呼び止めようとした母の姿をもう一度見た。
「いってきます」
　そして目覚めたら――ただいまとごめんなを。

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あとがき

担当マスター：浅野悠希
ファンレターはマスターページから！

みなさまご参加ありがとうございます、浅野です。

自分の影と対面したり、乗っ取られたりとお疲れ様でした！
奥底に隠した本音と、向き合えたでしょうか？
一部の方は本当に闇落ちしてしまったり、別人格が心に生まれたりとしてしまったようで、これからどうなってしまうか心配な方もいらっしゃいますが、なんとか現実世界に帰還出来た方は、再び身体を狙われないように心を強く持って下さいね。

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お時間ありましたら、よろしくお願いします～！

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