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- 種族
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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
"So Close"
わずかな時間で、部屋は見ちがえるように生まれ変わった。
窓からは外の陽射しが入り、すっきりした畳と床を照らしだす。使われていない、という理由でそれまで例外的だったキッチンも、現在の部屋ならばごく当然の部屋のピースとして埋まっているように見えるだろう。
その台所に立って尚輝に背を向けていた時子が、くるっと勢いよくふりかえった。
「できました」
さっきまで新品だったフライパンが手にある。乗っているのは色もあざやかなゴーヤチャンプルーだ。野菜嫌いのはずの尚輝がいたく気に入ったのだという。あざやかな緑色はゴーヤだけ、あとは麩ともやし、キャベツ少々と卵、そしてポークランチョンミートが入っている。
このランチョンミートというものは肉の切れ端など、余った部分を挽肉にして固めたものを加熱加工したソーセージの一種だ。もとは豚肉の代用品として米軍経由でひろまったものを、沖縄ではひろく料理で用いる。ランチョンミートの某ブランドは、大量に送られてくる迷惑メールの別称の元ネタとなったことでも有名だ。
沖縄ではグルクンと呼ばれるタカサゴの南蛮漬け、豚の骨付きあばら肉（ソーキ）も卓にならんだ。
ゴーヤは時子がスーパーで買ったもの、他の主立った食材は尚輝が土産として購入した缶詰と真空パックを用いた。
「沖縄料理を作ったことはあまりないので……スマホで調べただけの見よう見まねですが」
「ありがとうございます」
とても美味しそうですと尚輝は言う。尚輝が座るテーブルは、つい二時間ほど前までは物置であり勉強机でもあるという異空間だった。ようやく本来の姿を取りもどした格好だ。
白米は尚輝がよそった。ふたり向きあって「いただきます」と手をあわせた。
冷やしておいた麦茶とともにいただく。
ゴーヤチャンプルーなら時子も作った経験がある。しかしそのときは豚バラ肉を用いた。ランチョンミートを使うのは初めてだ。もともと加工品ということもありすぐ火が通って、カリカリになったものを口に運ぶ。濃い味だがその味は、個性の強いゴーヤとの相性は抜群だった。麩はじんわりと存在感を示し、もやし、キャベツも名バイプレイヤーとしてダブル主演を盛り立てている。
片栗粉をまぶしてカリッと揚げ焼きにしたグルクンの南蛮漬けは、小アジで作るよりもさっぱりとして、そのぶん漬けダレの味わいがひきたつ。やはり尚輝のお土産で、沖縄産のシークヮーサー果汁をかけて食べるのがたまらない。
ソーキはパックを湯せんで温めただけのお手軽さだが、脂分が少ないのにじっくりと味が染みこんでおり、骨までやわらかく食べられる。ぷるぷるとした部分にはコラーゲンが多そうだ。
「お口に合いますか？」
時子が視線を向けると、「もちろんです」と尚輝はうなずいた。尚輝の皿のゴーヤは控え目だが、きちんと食べているようだった。
「南蛮漬けの残りと、一緒に作ったじゃがいもの煮物は冷蔵庫に入れておきました。日持ちしますのでまた食べてくださいね」
「助かります。……まだまだ暑いですが、その……御巫さんのおかげで、豊かで健康的な新学期をすごせそうです」
豊かで健康的、磨いた宝玉のような言葉だ。そんな言葉が尚輝から出たことが時子には嬉しい。尚輝は半分学校に住んでいるような状態で、平気で何日も化学準備室に寝起きし、実験に夢中になればそれこそ植物よろしく、丸一日でも二日でも食事を忘れてしまうような人だったのだ。もし尚輝が時子と出会っていなければ、今ごろ尚輝は栄養失調で重い病気にかかっていたかもしれない。
食事が終わりテーブルが片付き、グラスに氷を浮かべたアイスコーヒーを飲む。
「これが飛行機からの光景で……ほら、空からみた沖縄本島です」
尚輝は自分のスマホで、沖縄で撮影した写真を時子に見せていた。
たくさんの写真のなかで、時子が特に心惹かれたのはやはり海だった。
「私も、行けるものなら行きたかったです……沖縄に。どうしても行けなかったんでガイドブックだけ見ました。SUP（スタンドアップパドルボード）とか、シュノーケリングとか、やってみたいですね」
想像する。尚輝と一緒にボートに乗って、エメラルドグリーンの海に漕ぎ出すところを。
あるいは、手を繋いで神秘の世界をともに鑑賞するところを。
「でもこの時期、まだ昼は暑そうなので夜の涼しいときに、ナイトサファリや星空と夜光虫の幻想的な光景を見に行くのも楽しそうですね」
「だったら僕も、もっと体力をつけないといけませんね」
尚輝は言った。
「昼間に海で遊んだら、それだけでもう寝てしまいそうですから。ナイトサファリの時間まで起きていられるように……」
いけない、と尚輝は恥ずかしげにこめかみをかいた。
「はは、どうしてでしょう。僕、一緒に行く気でいました」
「尚輝先生」
時子は顔を上げて尚輝を見る。
尚輝も、時子を見ていた。
どれくらい長くそうしていたのか。
「ア、アイスコーヒーのおかわり、入れますか？」
慌ててごまかすように、尚輝は立って冷蔵庫を開けたのだった。
尚輝からのお土産は、沖縄原産の塩を用いたバスソルトと、緋色の琉球ガラスを用いたネックレスだった。
――"So Close" 了
窓からは外の陽射しが入り、すっきりした畳と床を照らしだす。使われていない、という理由でそれまで例外的だったキッチンも、現在の部屋ならばごく当然の部屋のピースとして埋まっているように見えるだろう。
その台所に立って尚輝に背を向けていた時子が、くるっと勢いよくふりかえった。
「できました」
さっきまで新品だったフライパンが手にある。乗っているのは色もあざやかなゴーヤチャンプルーだ。野菜嫌いのはずの尚輝がいたく気に入ったのだという。あざやかな緑色はゴーヤだけ、あとは麩ともやし、キャベツ少々と卵、そしてポークランチョンミートが入っている。
このランチョンミートというものは肉の切れ端など、余った部分を挽肉にして固めたものを加熱加工したソーセージの一種だ。もとは豚肉の代用品として米軍経由でひろまったものを、沖縄ではひろく料理で用いる。ランチョンミートの某ブランドは、大量に送られてくる迷惑メールの別称の元ネタとなったことでも有名だ。
沖縄ではグルクンと呼ばれるタカサゴの南蛮漬け、豚の骨付きあばら肉（ソーキ）も卓にならんだ。
ゴーヤは時子がスーパーで買ったもの、他の主立った食材は尚輝が土産として購入した缶詰と真空パックを用いた。
「沖縄料理を作ったことはあまりないので……スマホで調べただけの見よう見まねですが」
「ありがとうございます」
とても美味しそうですと尚輝は言う。尚輝が座るテーブルは、つい二時間ほど前までは物置であり勉強机でもあるという異空間だった。ようやく本来の姿を取りもどした格好だ。
白米は尚輝がよそった。ふたり向きあって「いただきます」と手をあわせた。
冷やしておいた麦茶とともにいただく。
ゴーヤチャンプルーなら時子も作った経験がある。しかしそのときは豚バラ肉を用いた。ランチョンミートを使うのは初めてだ。もともと加工品ということもありすぐ火が通って、カリカリになったものを口に運ぶ。濃い味だがその味は、個性の強いゴーヤとの相性は抜群だった。麩はじんわりと存在感を示し、もやし、キャベツも名バイプレイヤーとしてダブル主演を盛り立てている。
片栗粉をまぶしてカリッと揚げ焼きにしたグルクンの南蛮漬けは、小アジで作るよりもさっぱりとして、そのぶん漬けダレの味わいがひきたつ。やはり尚輝のお土産で、沖縄産のシークヮーサー果汁をかけて食べるのがたまらない。
ソーキはパックを湯せんで温めただけのお手軽さだが、脂分が少ないのにじっくりと味が染みこんでおり、骨までやわらかく食べられる。ぷるぷるとした部分にはコラーゲンが多そうだ。
「お口に合いますか？」
時子が視線を向けると、「もちろんです」と尚輝はうなずいた。尚輝の皿のゴーヤは控え目だが、きちんと食べているようだった。
「南蛮漬けの残りと、一緒に作ったじゃがいもの煮物は冷蔵庫に入れておきました。日持ちしますのでまた食べてくださいね」
「助かります。……まだまだ暑いですが、その……御巫さんのおかげで、豊かで健康的な新学期をすごせそうです」
豊かで健康的、磨いた宝玉のような言葉だ。そんな言葉が尚輝から出たことが時子には嬉しい。尚輝は半分学校に住んでいるような状態で、平気で何日も化学準備室に寝起きし、実験に夢中になればそれこそ植物よろしく、丸一日でも二日でも食事を忘れてしまうような人だったのだ。もし尚輝が時子と出会っていなければ、今ごろ尚輝は栄養失調で重い病気にかかっていたかもしれない。
食事が終わりテーブルが片付き、グラスに氷を浮かべたアイスコーヒーを飲む。
「これが飛行機からの光景で……ほら、空からみた沖縄本島です」
尚輝は自分のスマホで、沖縄で撮影した写真を時子に見せていた。
たくさんの写真のなかで、時子が特に心惹かれたのはやはり海だった。
「私も、行けるものなら行きたかったです……沖縄に。どうしても行けなかったんでガイドブックだけ見ました。SUP（スタンドアップパドルボード）とか、シュノーケリングとか、やってみたいですね」
想像する。尚輝と一緒にボートに乗って、エメラルドグリーンの海に漕ぎ出すところを。
あるいは、手を繋いで神秘の世界をともに鑑賞するところを。
「でもこの時期、まだ昼は暑そうなので夜の涼しいときに、ナイトサファリや星空と夜光虫の幻想的な光景を見に行くのも楽しそうですね」
「だったら僕も、もっと体力をつけないといけませんね」
尚輝は言った。
「昼間に海で遊んだら、それだけでもう寝てしまいそうですから。ナイトサファリの時間まで起きていられるように……」
いけない、と尚輝は恥ずかしげにこめかみをかいた。
「はは、どうしてでしょう。僕、一緒に行く気でいました」
「尚輝先生」
時子は顔を上げて尚輝を見る。
尚輝も、時子を見ていた。
どれくらい長くそうしていたのか。
「ア、アイスコーヒーのおかわり、入れますか？」
慌ててごまかすように、尚輝は立って冷蔵庫を開けたのだった。
尚輝からのお土産は、沖縄原産の塩を用いたバスソルトと、緋色の琉球ガラスを用いたネックレスだった。
――"So Close" 了
あとがき
担当マスター：
桂木京介
ファンレターはマスターページから！
御巫 時子様、あらためまして、リクエストありがとうございました。
桂木京介です。
プライベートシナリオですので、あとがきはコメント欄でじっくりと行います。
どうぞご覧下さい。
ご意見ご感想などお待ち申し上げております。
桂木京介でした。
新たなシナリオでお目にかかるのを楽しみにしています。
桂木京介です。
プライベートシナリオですので、あとがきはコメント欄でじっくりと行います。
どうぞご覧下さい。
ご意見ご感想などお待ち申し上げております。
桂木京介でした。
新たなシナリオでお目にかかるのを楽しみにしています。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
-
- 2022年07月27日
- 参加申し込みの期限
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- 2022年08月03日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2022年08月03日 11時00分
