けもののくらし｜リアクション

けもののくらし

　楡宮遠海は外出中、頭の上でピクッと何かが動いた。
「……？」
　そっと頭に触れてみると、
「何、これ」
　困惑。手で触れただけでもわかる。三角の獣耳だ。腰のあたりには尻尾が生えていた。
「犬？　なんかやたら匂いが」
　目の前に料理が置かれているかのような香ばしい香りが鼻腔に届いて、うっとりとしてしまう。
「が、我慢出来ないかも」
　よだれが出てきてしまった。
　鼻をすんすんと動かしながら、匂いにつられて誘われたのは、焼肉店だった。
　遠海が中へ入ると、奥の席で狼耳尻尾の男がご飯をもりもり食べていた。流れるように網に肉を並べ、ひっくり返した順にタレをつけて口の中でご飯と合わせる。
「！」
　ぶるっと武者震いをする。
　思ってしまった。負けられないと。
　遠海は席に着くと、店員さんへ注文を伝える。
「カルビ、ロース、ハラミ、タン、ヒレ、鶏もも、豚トロ、豚ハラミ、ホルモン各種、野菜に海鮮、ご飯特盛。それと、冷麺に石焼ビビンバ、キムチにゴマダレキャベツ！」
「かしこまりました」
　店員さんは、驚いたように目を瞬かせるがお辞儀をして戻って行った。
　と、視線を感じ、窓際の席にいる少年少女がむっとした様子でこちらを見ていた。ネズミ耳がぴくっと動く。
「後からきたワンコなんかに負けないからな！」
「あんな細い体であんなに食べられないよ、絶対」
　何故か対抗心むき出しである。どうやら少年少女は狼耳の男と競争しているつもりらしいが、当の男の方は意識すらしていない様子。
　やがて、注文品が運ばれてきた。
「まずはっと」
　薄めのタンとカルビを半々で並べ、その間にキャベツとキムチで胃を鳴らす。
「頂きまーす」
　焼いた肉に塩をつけ、ご飯でくるんで口の中へ。
「んー！」
　肉汁とご飯の絡みが最高だ。
　遠海は肉とご飯を交互に口へ運び、時々キャベツとキムチで一息つく。
　箸で掴んだご飯を目一杯口へ。肉をまとめて三切れ。
　少年少女がその様子を見ながらぽかんとしている。狼耳の男は、やや驚いているようだ。すぐににやりと笑う。
　ライバルとして認められたようだ。
「すみませーん、タン塩、カルビ追加でー」
「ロース、ハラミ追加、ご飯特盛一つ」
　男が対抗するように注文を繰り出す。
　と、相手にされていないと分かった少年少女が、むきーっと言って立ち上がった。
「美味しくないんだよ！　こんなところ！」
「行こうよ、もう」
「あ、お客さん」
　店員さんが慌てて止めるが、彼らは外へ出て行ってしまう。
「あ」
　思わず遠海は立ち上がった。美味しくご飯を頂いて、無銭飲食とは。
　男も同時に立ち上がった。
　しかし、
「任せて」
　追って飛び出た店員さんに対し、猫耳の少女が現れて片目を閉じて見せる。
「私が捕まえますから！」
　彼女はネズミ達を追いかけて行った。

　猫耳少女ことまゆらに連れられて来たネズミ達はしゅんとしていて、店員に謝っていた。
　どうやら彼女が捕まえて、怒ったらしい。
　十皿目のタン塩を食べていた遠海は、ホッとして彼女達を見ていた。狼男と目が合い、お互いペースアップ。
　これで存分に大食い対決出来るというものだ。

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