暴走扇風機を止めろ！｜リアクション

暴走扇風機を止めろ！

●役割分担

　マリエッタ・ラシュリエは寝子島駅の周辺で買い物をしていた。暑さに辟易しながら日陰を見つけては休憩を挟む。

「暑いわね……」

　彼女の口から呟くように言葉が漏れた。どこか喫茶店で休むのもいいかもしれないと思っていると、寝子島駅に巨大な扇風機を発見した。駅前ということもあり、行き交う人々はそこで涼んでいた。

（暑さ対策に誰かが置いたのかしら）

　彼女も扇風機の風にあたってゆったりとする。しかし異音がした直後、扇風機が暴走して凄まじい風が吹き荒れる。軽いものは呆気なく吹き飛ばされ、先ほどまで涼んでいた人々は屈んだり、何かにしがみついたりして凌いでいる。

「どうにかしないと……」

　マリエッタは困惑した声で言った。

　扇風機が暴れだす少し前。
　桜井ラッセルはろっこん『黄色いピヨコ』でカナリアになって飛んでいた。

「暑いーしぬー、けど移動するのには飛ぶの時短になるしなー」

　何物にも阻まれない空は目的地まで一直線に繋がる。暑いことに目を瞑れば、少しの辛抱。そう思って寝子島駅の上空に差し掛かった頃、突然強い風が下の方から突き上げるようにやってきた。

「どわああ！！　竜巻か突風か！？」

　ラッセルの体はくるくると回転しながら空へと吹き飛ばされて、文字通り目が回ってしまった。下を見ると、巨大な扇風機が見える。

「え、なぜ、リッカルド町長の配慮？　熱中症対策？」

　扇風機は強風を吐き続け、首も定まらずにあらゆる方向に風を撒いている。それ自体は善意で置かれたように思えたが、周囲の様子は穏やかではない。先ほどはカナリアの姿で盛大に飛ばされてしまったので、しっかりと重量のある鷹に姿を変えて遠巻きに様子を伺う。
　建物の陰でやり過ごす人々だけでなく、立ち向かおうとする人々もいた。そのなかにはマリエッタの姿もあった。ラッセルは一旦人の姿に戻って連携を持ち掛ける。そこに異を唱える人はいなかった。

　お互いに得た情報をもとに話し合い、マリエッタが作戦を提案した。
　作戦と言ってもシンプルで、電源ボタンを押して止めるだけ。しかし扇風機の首は時々人感センサーがあるかのように狙いをつけてくる。そこで全員で扇風機に向かっていき、風の方向を攪乱しているうちに誰かがボタンを押す。
　問題は誰が押すか。扇風機に最も近づく以上、危険に晒される可能性が高い。

「じゃあ俺がボタンを押すよ」

　誰もが躊躇するなかでラッセルが名乗り出た。作戦が決まり、いざ扇風機へ向かって突撃する一同。すると、まるで応戦するかのように扇風機がこちらに向けて風を飛ばす。
　ラッセルはろっこんでカナリアになると、上空へ避難した。作戦どおり、扇風機の風は地上の人々に向いていてラッセルのほうには来ない。もしこちらに風が来ても角度を変えて直撃を避ければ、なんとか墜落は免れるだろう。

（しかし、飛行力試されてんな……）

　カナリアでぶつかったら一撃で落ちかねないので建物の位置にも注意する。そうして様子を伺い、急降下を試みた。幸い扇風機に気づかれることなく、電源ボタンに降り立つと人の姿に戻る。
　両手にしっかり力を込めて、電源ボタンを押すと暴走していた扇風機が止まった。

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