夏霞の赤い月　Ghost Festival Moon｜リアクション

夏霞の赤い月　Ghost Festival Moon

　何でもない日にお祭りをすることは少ないから、今日は意味のある日。
　でも、そんな小難しい事を考える余裕があるのなら、お財布のやりくりを考えるほうがよほど大事。
　水着にうさ耳パーカーを羽織った白真白は、立ち並ぶ露店をキラキラした眼差しで眺める。
「焼きそばやたこ焼きみたいな定番物はちゃんと抑えたいし、でも外せない物といえば……」
　艶々と輝くりんご飴、なんでか食欲をそそられるお好み焼き。あまり目新しすぎるラインナップはないけれど、だからこそ１年に１度のお祭りが帰ってきた！　という感じがしてわくわくする。
（帰ってきた、といえば）
　お祭りの日が近づくと、頭の天辺とお尻の辺りがむずむずする気がする。
　ご先祖様に獣人がいたと聞いた事があるので、その血が何か関係あるのかもしれないなと霞がかった赤い月を見上げて少し物憂げに考えてみたりもしたのだけれど。
「はい、焼きそばとお好み焼きのハーフセットね！　たこ焼き３つはおまけだよっ！」
「わぁああっ！　ありがとう！」
　端から食べたくてもお財布と食べられる量を考えるとそうもいかず。
　悩んだ末にちょっとずつ多種類を食べられることになって、真白はニコニコと簡易テーブルへ向かう。
　大人が立ち飲みするサイズに作られた物は背丈的に厳しく、ビニールシートの上に瓶ビールの箱を等間隔に並べて板を渡しただけの長机もどきの前で腰を下ろした。
（今日は何が盛り上がってるかな？）
　まずは焼きそばを一口頬張って、咀嚼しながら周囲に目を配る。
　お祭りとは言うけれど、特段目を惹く催しが公式的に行われているわけではない。
　思い思いに歌って踊って、飲んで騒げの宴会場で行われる物と言えば、力自慢やちょっとした隠し芸の披露。
　それから――
（あそこでも何かやってるみたい）
　少し離れた長机もどきの一角で、賑やかな場所を見つけた。よそ見をして油断しながら食べたたこ焼きの熱さにちょっとびっくりして、冷たいジュースで口内を冷やす。落ち着いて見ると、カードのような板状の何かがキラリと輝いた気がした。
（何のカードだろう、トランプ？　UNO？　もしかしたらTCGかも！）
　少し急ぎ気味に食べ終え、人の輪に交ざりに行く。そこでは多人数で遊べるようにか、戦略系やスピード系と呼ばれるジャンルのカードゲームもいくつか揃っていた。
「はいはーい！　今から参加できるゲームに私もまーぜて！」
　ルールを熟知していなければ難しいのもあれば、時の運で全てがひっくり返ることもあり得る。
　カードゲームは、凝り性で楽観主義な真白にうってつけのゲームだった。
「こっちでポーカー始まるよっ！」
「やるやるー！」
　今回は手札を5枚配る一般的なクローズド・ポーカーで、チップを賭けないのでコール＆レイズはなし。
　全員に手札が行き渡ったのを見て、真白もゆっくり確認する。
（！　やっ……あ、違う。ハートの10・J・K・Aときて、ダイヤのQかぁ）
　ツーペア以上の役が狙えるのなら、勝てるとは思うのだけれど。
　でもこのカードを気持ちよく場にオープン出来るかと言われれば物足りない。
　面倒くさい、でもどこかで引けるんじゃないかって楽観的に思っている。
　他のプレイヤーがドローをするのを見て、真白の直感が今だと告げる。
「ドロー！」
　場にダイヤのQを捨てて、ストックから1枚引く。それは直感通り、ハートのQだ。
　にんまり笑ってオープンのタイミングを待っている間ギャラリーを見てみると、気になる人影が見えた。
（……あれ？　あの人、なんだか知ってる気が）
　目線が合うことなくギャラリーから居なくなったその人の名前もわからないのに。
　懐かしいなんて、ね。

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