両手いっぱいの星空を、きみと｜リアクション

両手いっぱいの星空を、きみと

　学校という理由があれば、昼を意識して過ごすこともあるけれど。その境目がしっかりしているほど夜が途方もなく暗い闇として襲い来る。
　逆に長期休みの今は、その境目が曖昧だからこそ闇から這い出るタイミングがわからず、ただただどちらともわからない時間を、快楽で隙間を埋めてやり過ごす……そうするしか術が無い日々を過ごしてきた朝鳥さゆるを、朝日が迎えてくれることは少なかったのかもしれない。
（……午後8時？）
　微睡んでいたはずなのに、スマホは夜の始まりを告げる。そもそも、眠りに落ちたのはいつだったか。
　眠り直すほどの眠気は生憎なくて、夜を実感するのも――気分が、のらない。
　シャワーくらい浴びようかと起き上がり、ベッドの軋みを聞いた姫木じゅんがこちらを一瞥する。すぐに視線はスマホに戻されたので、邪魔にならないようさゆるは静かに立ち上がった。
「あんた、寝子高だったよね？」
「そうだけど……」
「あんたの行ってる学校で天文観測だって」
「そう……」
「行くから、準備して」
　星空なんて、この部屋からでも十分見られるのに。わざわざ観測会に赴くほど興味があるのかと問えば、じゅんの興味は寝子高に注がれていた。
　確かに、いくら見た目が中学生程度に見えるからと言っても、一般開放されてない限りは入ることは許されない――と言い切れるほど厳しくなさそうな校風ではあるが、それはいい。
　どうせ目も冴えてしまったことだ、久しぶりに星空を見上げる夜があってもいい。
（……星を誰かと見るなんて）
　少なくとも、荒れた夜を過ごす日々になってからはなかったはずだと、さゆるは不思議な感覚を覚えた。

　身支度を済ませて二人で学校に行ってみる頃には、すでに流星群も観測しやすい頃合いになっていた。
　校舎を照らす街灯も最低限に絞られ、広く暗いグラウンドは星空を見るにはうってつけだろう。
　だが、目的が寝子高だったじゅんにはどうだろうか？
「へぇ、結構見えるもんね」
「校舎、見て回るんじゃないの？」
「なんで？」
　寝子高に行ってみたいと言ったのは、じゅんなのに。本当に来るだけで満足してしまったのだろうか、こんな普通の、
（……私が、通っている学校）
　まさかと頭を振って、自嘲する。そうやって興味を持ってもらえるのは、それがじゅんであるのなら――悪くないのかも知れないけれど。
　期待せずに見上げた夏の夜空は、特に感慨深くも衝撃的な美しさがあるわけでもないけれど、この景色を見るために誰かと居るというのは、あてもなかったあの夜とは違うかも知れない。
「カシオペヤ、ケフェウス……白鳥、鷲」
「随分知ってるのね」
「……よく、眺めてたから」
　ぽつりぽつりと夜の過ごし方を話すさゆるは星を見つめたままだったから、じゅんも彼女の顔を見ないことにした。茶化しもせず、ただ「ふぅん」と相づちをするかしないかの、淡々とした会話。
　それでもさゆるの心は幾ばくか軽くなった。今日の自分は睡眠薬も効かず何か諦めたわけでも、貪ることで繋がる仮初めの温もりに縋るでも無く、誘われたと言ったって引きずられることもなく……自分の意志で、安寧な夜を人と過ごしている。
　良い思い出のない夜が、闇の時間がひとつ明るい思い出になった。それは確かだ。　
「……じゅん。あたしと一緒に夜の中にいてくれて、ありがとう」
　あまりに素直な声音だったから、じゅんは驚いてさゆるを見た。悔しいかな、星を眺める彼女の表情までは身長差もありハッキリとしない。
「……あっそ」
　ふふっと苦笑をかみ殺す様は、何か思うことがあったのだろう。けど、さゆるは変なことを言ったつもりもないので、その笑いには気づかないことにした。

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あとがき

担当マスター：浅野悠希
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みなさまご参加ありがとうございます、浅野です。
学校でのちょっとしたお祭りや流星群を楽しんで頂けたら幸いです！

お久しぶりな方も多くいらっしゃってくださって、とても嬉しいです。
状況説明のために、参照リアクションつけて頂きました方は、興味深く拝見させて頂きました。
ただ、執筆期間中に読み終わろうと思うと、事実確認がいっぱいいっぱいで深く読み込みができない場合もございます。
拾えてない情報がありましたら申し訳ないなと思いつつ、できる範囲で盛り込みましたがどうだろう……。

ご意見ご感想、もしくは「読んだよ！」の代わりにダイヤリーのページチェック入れて頂けると、めちゃくちゃ喜びます。
お時間ありましたら、よろしくお願いします～！

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